思念の滝壺

山に登る。

霧島山(韓国岳&高千穂峰)登山~天孫降臨伝説の地~

はじめに

鹿児島遠征2日目、4/7(日)の記録。

 

この日は霧島山を登った日になる。「霧島山」とは複数の山の総称であり、私が実際に登ったピークは二座、

だ。

そのついでに日帰り温泉霧島神宮も満喫した充実した一日となる。

 

 

山行録

白鳥温泉で素泊まりした前夜から、朝は4:30に起床。霧島山の登山拠点であるえびの高原へ早速出発した。

早朝で天気も曇り~小雨という感じなので、駐車場を見渡しても他に車はない。どうやら本日の韓国岳登山の一番乗りになれそうだ。

装備を整え、本格的な雨に備えて上だけレインウェアを着こんで出発。

ガスに包まれて神秘的な韓国岳。一部が欠けた特徴的な火口

5:55 えびの高原出発

久々に雨が降っていない快適な道のり!屋久島でも開聞岳でも降られっぱなしだったのでなんとも新鮮な気持ちになる。

 

植生はアカマツが多いのが特徴的で、これは火山灰の土壌に特有のものであるようだ。たしかにここは今でも火山活動が活発な霧島山系、しかも横を見ると火山ガスの噴出で立ち入り禁止になっているエリアがあるくらいだから納得だ。

アカマツがたくさん

ロープの先はガスにより立ち入り禁止

開放感ある道に足取りも弾んで標高は順調に上がっていき、えびの高原のきれいな展望が。このへんまではガスが下りていなかったようだ、久々の景色が味わえて満悦。

かなり高いところにいるはずなのだが、高原へつながる道路を車が通る音がはっきり聞こえてきて不思議でもあった。

左のえびの岳、右奥の白鳥山、そして今登っている韓国岳に囲まれたえびの高原

元気にもくもくしている硫黄岳

五合目を越えたあたりからはいよいよガスに捕らえられて視界は通らなくなり、常に鼻を突いていた火山ガスの腐卵臭も鳴りを潜めだした。これは山に集中しろということだろう、黙々とアタックを開始。

赤茶けた土メインの道に変化していき、次第にその中に大きな岩がごろつく世界となってくる。

休憩所。なんか去年9月に登った十勝岳を思い出す眺め

赤茶けた道。申し訳程度の丸木は土壌流出防止のためか

火口辺縁へ到達!景色が開けていればなあ


そして登頂!

7:05 韓国岳山頂



山頂付近では雨こそあまり降ってはいないものの、濃密に立ち込めるガスと山頂特有の強風によってレインウェアはかなり濡れていた。

 

ここまでの行程から察するに、山頂よりもむしろ標高を下げたところの方が景色を楽しめそう、ということで早速下山を開始した。

 

なお、下山ルートは韓国岳を南に下りるついでに大浪池を周回するものにした。大浪池、見れるといいなあ。

 

下山ルートは丁寧な木階段

大浪池との鞍部にある韓国岳避難小屋

大浪池の火口部に取り付いたタイミングでは視界は全く開けず。このまま湖面を見れずに終わってしまうのかと思いながら火口辺縁を反対側までなぞっていくと、ついに雲の切れ目が!

国内最大の山頂火口湖である大浪池の巨大な湖面を目の当たりにすることができてよかった。

 

火口歩き前半は霧中

湖面が見えた!

巨大な全貌

大浪池の名前は民話に由来しているらしい。池に身を投げたお浪(この池に住む龍王の化身だった)に由来して「お浪の池」、それが転じて「大浪池」。

地名の由来と音の変化を辿るのはやはり楽しい。

 

大浪池を回り終わった後は細かいアップダウンを繰り返してえびの高原へ下山した。

 

9:10 えびの高原へ下山

まだまだ時間は朝の9時。温泉に浸かる時間を計算に入れてももう一回くらい山に登れそうな余裕がある。体力も十分だ。

...なら、山頂に天の逆鉾が突き立ち、天孫降臨の地ではないかと考えられている高千穂峰に登ろう!ということになった。高千穂峰の登山口は高千穂河原、えびの高原から30分もかからず車で行ける。

 

いったんえびの高原で休憩、エネルギーを充填してから高千穂河原へ移動した。

現地のおいしいものでパワーチャージ

高千穂河原 こちらもマツが豊富

10:30 高千穂河原出発

高千穂峰は特に信仰とのかかわりが深く、登山口のほど近くには二代目霧島神宮の跡である「霧島神宮 古宮址」が、登っていった先、御鉢と高千穂峰の鞍部には一代目霧島神宮の跡とされる「霧島神宮 元宮」が見つけられる。

 

登り始めてさっそく二代目霧島神宮跡が。社殿こそないが境内は広く、非常に厳かな雰囲気だった。


登山道の前半は石段がよく整備された快適な道のり。途中でトレイルランナーとすれ違ったので先のコンディションを聞いてみると、御鉢の火口辺縁の風がとても強いらしい。十勝岳韓国岳での経験からしても広い火口はとくに縁の風が強くなりやすいので納得だ。気を付けていこう。

 

御鉢までの本格的な登りに踏み込むと、韓国岳よりもさらにゴツゴツした岩に満ちた登山道に。岩まみれとはいえ、溶岩由来の岩は表面がざらざらしていてグリップが抜群に効く。サクサク登っていけて楽しい。

視界もガスで閉ざされているが、ペンキマークが親切で道を見失うことはなかった。

 

そして御鉢の火口辺縁へ到達。序盤はそよ風が吹き抜ける程度で見くびっていたが、火口になぞって歩いていくにつれて風速は速くなり、最後は歩いていてバランスを崩されるほどには強風となっていた。十勝岳で鍛えられていたおかげであまり恐怖は感じず、むしろ楽しめてはいたが、悪天候時に危険な地点なのはよくわかった。

 

御鉢から鞍部へやや下りると、そこに一代目霧島神宮の跡が。

こちらには小さめの祠が建っていた。環境の厳しさを考えると、こんなところに神宮を造立した古代の人々はすごい根性だ。

 

 

ここから高千穂峰にかけては風もあまり強くなく、わりと快適に登頂!

 

11:40 高千穂峰山頂

山頂の小屋は頑丈そうなコンクリート造り

 

いよいよニニギノミコト高天原から地上へ降り立った際に突き立てたとされる「天の逆鉾」と対面だ。

 

天の逆鉾

鎖に囲まれていて近寄ることこそできなかったが、少し離れて眺めた天の逆鉾は神秘的だった。なんだかこの一点で俗世界と神話の世界がリンクしているような感じだ。

あと、あれを抜いたらなんかすごいことが起こりそう。原初の神々が復活するとか火山活動が再開するとかありそう。ついでに逆鉾にもすごいパワーが秘められてそう。先からレーザーとか出したりして。

 

ガスで景色が開けない状況で登る山として高千穂峰を選んだのは正解だった。周りを見下ろすことはできなくても、道中の神宮跡や山頂の天の逆鉾という、人間が造ってきたものを見ながらの山行はとても楽しかった。

 

途中で二ホンシカを見かけたりしながら無事下山。

チラッ

12:30 高千穂河原へ下山

あらためて高千穂河原を散策。高千穂河原ビジターセンターは特に展示が充実していてすばらしい施設だった。

火山地獄みたいな山域

噴火に備えたシェルターも

一通り散策が終わって13時ごろ。19時のフライトまで時間は潤沢に有り余っている!

 

まずは温泉だ。せっかく一代目・二代目霧島神宮を見てきたのだから現役三代目の霧島神宮にも行きたいが、それはリフレッシュしてからでいいだろう。

 

ということで霧島温泉郷ヘゴー。

 

日帰り温泉霧島国際ホテル

今回選んだのは霧島国際ホテル。名前の雰囲気からもわかるようにかなり上品な雰囲気で、日帰り登山者が入るには気後れするほどですらあった。

見た目の立派さに負けず劣らず、温泉も過去一のレベルだった。源泉が2種類あるし(白濁と透明、どちらも硫黄泉)ついでのように伝統スタイルの蒸し風呂も。

ずっと濡れながらの山行で体は芯まで冷えていたので、1時間近く浸かり続けてじっくりと熱をもらって復活した。すばらしい温泉にのぼせずに長く浸かれたのでかえって得をしたかもしれない。

霧島国際ホテル

きれいなくつろぎスペース

いい湯でした

ついでにお土産店で買った芋焼酎「だいやめ」
ほんとにライチの香りがした

リフレッシュを成し遂げ、時間もまだ15時と余裕を残しているので次は霧島神宮へ!

 

霧島神宮

現役にして三代目の霧島神宮、社殿はかなり豪華な印象で、ちょうど見ごろを迎えている桜と合わせて華やかであった。以前行ったことのある伊勢神宮の質素を極めたような様子とは対照的で、こちらもこちらで見ごたえがあった。

なお参道横の側溝に当たり前のように温かい温泉が流れていて笑った。火山の恵み満ち溢れる土地だな。

第一の鳥居

第二の鳥居

階段を上って第三の鳥居

華やか!

圧倒的平安時代

御神木も 屋久杉に負けず劣らず

山神社にもお参り

側溝に流される温泉

無事帰還

お参りを終えて16時ごろ、空港へ帰還するのにちょうどよい時間になった。

レンタカーからすぐ引き払えるように荷物をまとめつつ、空港まで気楽なドライブ。今回も無事故で返却できてよかった。

空港では盛況気味の飲食店で夕食をとるには足りないが暇ではあるという微妙な空き時間が発生。早めに保安検査場を通って悠々と飛行機に乗った。

 

今回こそは帰りの便が遅延せず時間通り運航してくれたおかげで、やっと終電を気にしなくてよい帰り道になって幸せだった。預け入れた手荷物が流れてくるのを待つ時間、終電が近いと本当に焦るんだよなあ・・・

 

総括

鹿児島遠征、天気こそ優れなかったがそれ以外のすべてを楽しめた充実の二日間だった!

今年のGW、どこに登るか本格的に考えないとな。

開聞岳登山~その道は螺旋の如く~

はじめに

先々週の屋久島に引き続き、鹿児島遠征第二弾を4/6(土)~4/7(日)にかけて決行した。

 

本エントリではその1日目、開聞岳登山を記録する。サクッと短めの登山だったので軽めにまとめたい。

 

 

登山計画

4/5(金)

最終の飛行機で羽田から鹿児島空港へ、近くの宿で一泊。

4/6(土)

朝にレンタカーを借りて薩摩半島の先端まで突っ走り、まず開聞岳へ登山。下山したら霧島市あたりまで移動して夜を明かす。

4/7(日)

霧島山へ登山。時間の許す限り行程を伸ばしてから空港へ帰還、夜の便で羽田へ戻る。

 

山行録

朝8時には鹿児島空港でレンタカーを借りたものの、鹿児島空港は県内でも最北部にあり、一方で目的の開聞岳薩摩半島の南端にある。同じ県とは思えないほど長時間の移動を要し、登山拠点のかいもん山麓ふれあい公園に到着したのは10:40のことだった。

鹿児島湾の海岸沿いの下道がかなり狭隘で全くスピードが出せないのも大きかった。高速道路に乗ることを学ばなければ。

 

公園到着時、天気は優れず、雨がぱらつく状況であった。海の中ににょきっとそびえ立っている(はずの)開聞岳の様相も雲に隠れて上部が見えないのは残念だった。

中腹からガスに覆われている

その一方でふもとの公園では、桜をはじめとした多種多様な花が咲き誇って見ごろを迎えており、素晴らしい眺めだった。せっかくキャンプ場もよく整備されているのに客が全然来ていないことがもったいなく感じるくらい。

 

キャンプ場を抜けた先で道の舗装が途切れ、本格的な登山道が始まった。

11:03 出発

開聞岳はきれいな円錐型をした火山ということで、富士山や羊蹄山蓼科山での経験上、道の斜度はずっと一定だろうなという気はしていた。

予想はその通りで、基本的にはほどよい斜度の道を、山に螺旋を描くようにコンスタントに登っていく行程となった。ただし、途中で仙人洞と呼ばれる洞窟があったり、山頂近くで梯子とロープで一枚岩を越える要注意区間があったりと変化もあって楽しい道のりだった。

3合目から9合目まで、1合ずつ細かく刻んで現在の地点を教えてくれて親切な道でもあった。

植生豊かな登山道のはじまり

石段が整備されてる個所も

5合目展望デッキ。残念ながら視界は開けず

仙人洞。山伏の修行に使われたそう

梯子区間

そして登頂!

12:30 開聞岳山頂

あいにくのガス

山頂では残念ながら展望が開けず。麓から見上げた時に予想されていたことではあるので落胆はしないが、山頂は吹き曝しで風がそこそこあるので休憩もそこそこに下山に入った。

登山道開整記念碑を見つけたりしつつ下山はさっくりと完了。

年号が正確に読み取れなかったが、大正に開かれた登山道っぽい

13:42 下山完了

下山後の晴れやかな景色(晴れではない)

翌日の霧島山登山も控えているので、濡れたレインウェアはできれば水分を飛ばしておきたい。コイン乾燥機が置いてあったので30分利用したが、出力がちょっと足りないらしく気持ち程度しか乾かなかった。30分でカラッカラにしてくれる家のそばのコインランドリーは優秀なんだな。

 

乾燥終了時点で時刻は14:30ごろ。明日へ向けて開聞岳を離れ、薩摩半島の北上を開始した。

白鳥温泉上湯へ

鹿児島市で渋滞に巻き込まれたこともありロングドライブとなった。霧島温泉郷へ到達したのは19時ごろで、開いている日帰り温泉は少なさそう...

と思ってネットで探していると、どうやら霧島温泉郷から車で20分程度の白鳥温泉上湯/下湯は20時までOKとのことだったのでそちらへ!

空いてる~、助かる

空き部屋があるとの貼り紙が!

快適な入浴でリフレッシュもできたが、さらに1枚の貼り紙が目に入った。空室があるので当日宿泊もできるようだ...!

もともと車中泊も辞さない覚悟で来てはいるのだが(宿泊予約を取るのが面倒だし行動予定も縛られるので)、泊まれるところが見つかったなら積極的に利用したい。

 

ということで当日宿泊の素泊まりで部屋を取ることに成功、快適に夜を明かしたのだった。

 

久々の和室

 

遠征2日目へ続く

鹿児島遠征2日目は霧島山へ登っていく。

 

 

屋久島縦走 後記 個人的振り返り

 

はじめに

屋久島2泊3日縦走について、反省点や特筆すべき出来事について振り返り、次に生かすための割と個人的な雑記エントリ。

 

縦走自体の記録はこちら。4つある。

trthff.hatenablog.com

trthff.hatenablog.com

trthff.hatenablog.com

trthff.hatenablog.com

現地で買った傘の運用について

現地で、登山口への出発前に売店で傘を買った。険しくない区間で傘をさすことでレインウェアの濡れを少しでも防ぐ狙いだった。

良かった点 便利

宿泊時にとっても便利だった。

無人の山小屋においてトイレは外にあるのが普通なので、水汲みやトイレなどで外出する必要が出てくる。そのときレインウェアを着なおすのは結構な手間なのだが、傘があれば着替える必要なく手軽に外に出られる。快適さが全然違った。

ほぼ確実に雨が降ることが予想されるような宿泊山行では大いにありだ。

 

悪かった点1 山行中にさすのはさすがに論外だった

傘を差しながら歩いていると足元がお留守になるしバランスを崩しやすかった。

たとえ傾斜が緩かろうが、山行中はレインウェアに頼るべきなのだと実感。

 

悪かった点2 かさばった

折り畳みではない普通の傘だったので、いくら60cmでコンパクトめとはいえかさばった。

2日目の黒味岳往復あたりまでは手に持って歩いていたが、最終的にはリュックに外付けする形で何とかした。フォームパッドを横付けしていたので、それに沿うような感じ。それでもリュックの全高より高いため、枝に引っかからないよう気を付けて歩く必要があった。

傘を持っていくにしても折り畳みじゃないとさすがにダメ。それはそう。

 

おまけエピソード 匿名傘ぶっ壊しマン

2日目の夜、新高塚小屋での宿泊時のこと。持ってきた傘を玄関口の自分の靴の上に置いて就寝した。

翌朝。傘が壁に立てかけてあり「誰か使ったのかな」と思って手に取ってみると、取っ手部分と本体が分離しているではないか。どうやら誰かが踏んづけてぶっ壊したらしい。

誰か名乗り出て謝ってほしかったな。それっぽく壁に立てかけて誤魔化そうとするだけなのはとても残念だった。

山小屋にゴミを残していくわけにもいかないので取っ手も本体も自分で持ち帰った。

 

飛行機移動に関する知見

遅い時間に予約するリスク

屋久島から羽田に帰る便は一番最後の時刻を予約していたが、これは結構リスクがあることを実感した。ちょっと遅延するだけで終電に間に合わない可能性が出る。

遅延は安全上のやむを得ない問題に起因することがほとんどなので、フルサービスキャリアだろうが関係なく起こるときは起こる。

でかいリュックを預け入れるときには初めから有人カウンターで

50Lリュック+フォームパッド外付けだと自動荷物預入機を通らないことが分かった。

機械と格闘して時間をロスするくらいならはじめからカウンターに並ぶがよろし。

 

スマホ置き忘れ未遂事件

3日目最終日、楠川温泉からバスに乗って宮之浦に下りた際、スマホをバスの中に置き忘れかけた。

降車後にないことに気づいて慌てて振り返るとバスが止まってくれていた。なんと他の乗客の方がスマホの置き忘れを見つけて運転手に言ってくれたらしい。本当に感謝。

山行中のパンツならポケットが深いのだが、そのとき着ていた移動・睡眠用のパンツはポケットが浅めだった。そのため何かの拍子にずり落ちた可能性がある。速やかに運賃精算を済ますために財布に意識を集中させていたのも悪かった。(交通系IC対応ならスマホで決済できるから忘れなかったのに!)

改めて、席に忘れ物がないことの確認を怠らないことと、確実性の高いポケット(リュックでもよい)にしまうことを徹底するべし。

 

ずぶ濡れ時の気温と快適度

降り続く雨でずぶ濡れになっているとき、気温と体感での快適さの関係がどんな感じだったかを記録。

  • 20度ならまったく動いていなくても寒さは感じないレベル。
  • 10度だと肌寒い感があり、動いていないと冷える。動いていればすぐに体が温まり寒さは引いていく。

これ以下の気温にはそもそもならなかったので、これから経験する必要がある。いや一桁℃でずぶ濡れになんてなりたくないが。

 

早春の屋久島2泊3日縦走! 3日目:山から海へ、屋久島のすべてを味わう最終日

はじめに

屋久島縦走2泊3日の記録。

 

2日目はこちら。

trthff.hatenablog.com

 

今回は3日目 3/25(月)、新高塚小屋を出発して屋久杉や雲水峡を見つつ下山、温泉や宮之浦観光を経て帰還するまで!

たくさんの屋久杉との出会い、太鼓岩からの絶景、白谷雲水峡の観光、下山してからの楽しみと、屋久島で過ごした3日間の中で最も濃密な1日だったので、エントリも最長になると思う。気長に読んでもらえればさいわいだ。

 

 

縦走の果てに出会う縄文杉

例のごとく朝は4:30に起床、そそくさと準備を済ませて6:00には新高塚小屋を出発した。

行動着や靴はすでにずぶ濡れなので着るのには抵抗があるが、乾いた衣服だけは着替え用に守り抜かなければならない。決然と全身湿った格好にチェンジするのだった。

 

雨は夜通し降り続けていたが、早朝になると勢いは収まり小雨になっていた。この3日間の中では良心的な方だ。

 

今日この道を進んでいけば、いよいよ縄文杉をはじめとするネームド屋久杉たちに出会うことになる。縦走の大半を終えた達成感とともに期待感と高揚感に満ち、歩調は確かになっていった。

静粛な朝

3階建ての高塚小屋。「新高塚小屋」よりも新しくない?

名のない屋久杉もはるかな大きさを誇る

高塚小屋をすぎてさらに歩を進めると、ある点を取り囲むように設けられた巨大なデッキにたどりついた。そう、縄文杉だ。

大規模なデッキ 観光客のためもあるが、一番は縄文杉の根を守るためだろう

縄文杉と対面 遠くからでもスケールのでかさが分かる

正面から

 

三方から見られるのはありがたい

縄文杉に抱く第一の印象は、「すげえ元気そうだな!」というものだった。

7000年もの時を経て幹や枝は空前絶後の太さになり、自重に耐えられなくなった枝が次々に落ちて行ってみすぼらしい姿になってしまってもなんら不思議ではないはずだ。にもかかわらず縄文杉はいくつものしなやかな枝を空に向けて生き生きと伸ばし、たくさんの葉をつけている。これからも元気に生きていくという縄文杉の意志が見えるようでこちらも活力をもらうことができた。

この後も名前の付いた巨大な屋久杉にたくさん出会うことになるが、その多くは老人を彷彿とさせる歴史の重みが刻まれた見た目であり、それらと比べてやっぱり縄文杉が一番活力に満ちて見えた。さすが屋久島のアイドル、これからも末永く枝を伸ばして大きくなってほしい。

 

そして、縄文杉を皮切りにしてネームド屋久杉ラッシュが始まる!

寄り添う夫婦杉

中央の枝、なんとどちらの幹にも融合している それって可能なのか

大王杉。縄文杉よりも強く厳しい印象だ

大王杉の幹には巨大な亀裂が
根元の空洞から向こう側が見える

ウィルソン株。巨大な杉の根元の外周部だけ残る

中に入れる!

祠もあった

翁杉。2010年に枯死倒壊してしまったらしい

鉄道跡をたどる道

縄文杉・夫婦杉・大王杉・ウィルソン株・翁杉を眺め終わったところで道は安房森林鉄道に合流。なんと、かつて木材の運搬や森林の管理に使われていたであろう鉄道の中央に木道が走っている。

安房川北沢の北側をトラバースするこの道は、楠川分れで分岐するまで3kmほど続いた。起伏が少ないので快適に歩けるし、杉と広葉樹が混交する周囲の植生を眺めながらの行程だったので飽きることがなかった。

 

ちなみにこの辺で観光客とおおぜいすれ違うようになる。4人~10人のパーティで歩いてくる集団が多く、半分以上はツアー客と思われた。荒川登山口には早朝に路線バスが走っているので、そこから出発した人々だろう。

鉄道跡を利用した木道、楽しい~

方向転換用のスペースだったはずだけど、この奥行きで足りたのかな

仁王杉。半ばから力強くうねる幹

往時を偲ばせる標識。

徐行なら分かるけど、徐行砂ってなんだろう

増水によりスリルマシマシの橋

三代杉。根元の一代目はすでに姿を消し、完全な空洞

長く続いた鉄道にも楠川分れで別れを告げた。鉄道自体はここから先にもずっと伸びているが、白谷雲水峡を目指すにはここで北に方向転換し、辻峠に登る必要がある。

楠川分れ

白谷雲水峡へ向かうにあたっては懸念点があった。雨による増水だ。

辻峠から白谷雲水峡へ続く道には渡渉点があり、地図には「雨天時渡渉注意」とある。場合によっては渡れない可能性もある。

 

その場合には辻峠に登り返して楠川別れに戻り、鉄道沿いを直進して荒川登山口に下山するというエスケープルートを想定していた。

 

絶景の太鼓岩へ

少々の登りを経て辻峠に到達すると、太鼓岩への道を見かけた。

もともとは太鼓岩に寄る予定はなかったのだが、せっかくなので行ってみることに。

 

太鼓岩に寄って本当に良かった。景色がすばらしかった。

岩の上からは一気に展望が開け、南西の峡谷部が見下ろせた。谷を覆う森にはとりどりの色が点描のごとく入り乱れ、杉の濃緑、広葉樹の若緑、そして極めつけには山桜の薄桃色が視界のいっぱいに広がっていた!中央には川が流れて景色に一本の軸を通し、うっすらとかかる霧と相まって秘境の一枚絵を見事に完成させていた。

晴れでもそれはそれで素敵な景色だったろうとは思う。が、私には、霧に包まれ誰にも見つかっていないかのような仙境の眺めが特に好ましく、しばらく太鼓岩の上に佇んでいた。全体を通してガスに包まれていた山行の中で、最も広く景色を見渡すことができたひと時であった。

 

夢幻のような時間を終えて白谷雲水峡への道に移ると、今度は島民が名前を付けた屋久杉の数々に出会う。いずれの杉も命名センスが抜群である。

しなやかな女神杉

かみなりおんじ、「おやじ」じゃないのが可愛さ

武家

公家杉。樹皮を覆う白い苔の気品からこの命名を思いつくセンス

七本杉(これは住民命名ではない)

シカの宿。情景を想像させる

杉の地帯を終えて標高を下げていくと、事前に懸念していた渡渉点にさしかかった。

飛び石の上を渡れない程度には増水していたが、危険な流れというほどではなく、すでにびしょ濡れな膝から下を躊躇なく川に突っ込んで堂々と渡った。

渡渉点

正念場を抜けて一安心、この先は観光地として整備された白谷雲水峡で、危険個所はなかった。強いて言うなら丁寧に整備された石畳がかえって滑りやすくて怖かった。

吊り橋

石畳 親切なようでいて、雨天だと一番滑りやすくて危険

バス停に到達

咲き始めだが、確かに桜が

白谷雲水峡からは宮之浦に向けた路線バスなどが走っており、一般的にはそれで下山することが多いようだ。
しかし、自分の足で海岸部まで完全に下山できる道も実は存在する。楠川歩道だ。

 

楠川歩道は藩政時代、島津藩屋久杉を年貢として納めるために拓かれた運搬用の道であり、数百年の歴史を持っているそうだ。『山と高原地図』には、通行者はほとんどいないもののしっかり整備されていて道は明瞭とあった。楽しそうだし迷うリスクも少ないならということで、楠川歩道を歩き、自分の足で海まで下山することにしたのだった。

 

楠川歩道、歴史に思いを馳せて

雲水峡から楠川歩道への入口は若干分かりづらかった。舗装道を東に進んでいくとやがて舗装が途切れて荒れ気味の林道となる。それにめげずに200mほど進むとようやく小ぢんまりとした入口が見えてくる。

迷いかけたが無事入口を発見

楠川歩道は前情報の通り、登山者のいない割には進むべき方向が明瞭な良い登山道だった。踏み跡はところどころ薄くなっているのだが、ピンクテープによるガイドが非常に親切で、迷いそうになった時には顔を上げてあたりを見渡せばすぐに進路を定めることができた。

 

ただし、いくつかの困難もあった。

まず、とんでもなく滑った。岩石の組成がこれまでの道と異なるのだろう、黒みがかって表面のつるつるした岩たちは、雨で濡れていることと合わせて圧倒的低摩擦係数を実現。特に下りで滑るのは危ないことこの上ないので、おっかなびっくり慎重に下りていく必要があった。

こんな滑る道で材木を運搬していた江戸時代の人たち、さぞ苦労したことだろう...

 

また、渡渉点も一か所あった。地図には書いていないながら、明らかに雲水峡の渡渉点よりも幅が広く水深も深い要注意ポイントであった。まあ、地図の詳しさは人気ルートとバリエーションルートでかなり差があるから仕方ない部分ではある。楠川歩道を通るような物好きはこの程度の渡渉に支障がないことが前提だろう。

 

注意点はありつつも、総じて楽しい道のりだった。白谷雲水峡までで縦走は一段落ついていたので、一歩踏み込んで森を味わえるエクストラステージの感覚で歩いていた。

 

ピンクテープが親切

猛烈に滑る足元

ここも森深さを楽しめる

この太さの倒木はなかなかない

この時期、咲いている花は貴重なので見かけるとうれしい

シャクナゲだ!上品な色

管理された杉林も見かけるように

気温は20度を超え、すっかり夏の森の匂いに包まれる中で林道へ合流、楠川歩道は終わりを告げた。この時点で13時であった。

林道へ

伐採作業をやっていた
屋久杉ブランドなら日本の厳しい林業事情でもやっていけそう

このいかにも南国な花は...!?

芽が開き始め食べごろを過ぎたわらびも

屋久杉伐採の様子を眺めたり、次第に増える路肩の花を愛でたりしつつ林道を降りていくと、ついに森は途切れ水平線が目の前に。ようやく海岸線まで下りてきたのだった。

茶畑と水平線

私にとっては出口

 

リフレッシュ in 楠川温泉

楠川集落から海岸へ出るとようやく磯の匂いが。険しい山を下りたら一瞬で海というのもすごい環境だ。

この時間帯になってようやく雨が止み、空は曇り模様ながらクールダウンにうってつけの過ごしやすい気候になってきた。

ちょうど近くにあった楠川天満宮にお参り

山行は終わり、天気は改善となると、ずぶ濡れの自分が気になってくる。風呂に入ってリフレッシュしたい...!

近くで入浴可能な場所を調べると楠川温泉があった。距離にして1.5km先、歩くのに若干躊躇する距離ではあるものの、どうせここまで何キロメートルも歩いてきたんだ、ここからちょっと追加しても変わらんという精神性で向かうことに。

昔ながらといった建物 はじまりは安土桃山時代に遡るらしい

くつろぎスペース

楠川温泉には助けられた。たまった汚れも水分も疲れも吹っ飛ばし、乾いた服装にチェンジできたので気分は最高!

据付のシャンプーとリンスがどちらか分からず髪はキシキシになったがそれはご愛敬。

 

リフレッシュしつくした後に最寄りのバス停(楠川温泉入口)から宮之浦へ移動、屋久島最後の時間を使って散策しに向かった。

宮之浦散策

屋久島最大の町、宮之浦の街並み

 

宮之浦には益救(やく)神社があったので、まずそちらへ向かった。

ご利益と救いがある神社、そう書いて屋久島と同じ読み方なのが非常におしゃれだ。ちなみに屋久島はかつては掖玖島とも書いたらしい。

立派な境内

 

神社のそばでは、かつて屋久島のガイドを何年も務めていたという方に話しかけられた。屋久島に住んでいたが、家の老朽化につき東京に移住するとのこと。登山・ガイドの経験も屋久島の知識も豊富で、屋久島おすすめの飲食店を教えてもらったりと楽しくお話させてもらった。登れるうちにいっぱい山に登るべきと激励を受けたので、いっそう頑張っていきたいものだ。

 

次第に空港へ戻る時間が近づいてきた。最後にお土産だけ買って宮之浦を後にしよう。

屋久島観光センター

よりどりみどり

(帰宅後家で撮った)戦利品。特にあごだし系が美味しくて気に入った

また会おう屋久

屋久島を芯まで楽しみつくし、もう悔いはない!清々しい気持ちだ。

明日からの平日に備えてしっかり帰るぞという気持ちで屋久島空港に到着。早々にフライト準備を整えたが残念な知らせが。

鹿児島空港へのフライトが1時間ほど遅延&視界不良により福岡空港へ着陸する可能性があるとのこと。しかも鹿児島空港から羽田へのフライトも見事に1時間近く遅延。

けっきょく福岡空港に着陸することはなくて助かったのだが、羽田に着陸した際にはすでに23:30。いくらアクセスが良い羽田でもすでに終電が怪しい時間だ。幸い、なんとか東京モノレールの終電にも山手線の終電にも間に合ったため、自宅にできるだけ近いところまでは電車で到達、徒歩を最小限にとどめてようやく帰宅することができたのだった。タクシー利用で旅費アップも覚悟していただけに救われた。

真夜中のフライト to 羽田。安全第一だけどできれば急いで!

休日に予備日がなく、予約したフライトも最後の便だったために慌ただしい帰還とはなってしまったが、怪我をすることもなく、事故が起こることもなく、無事に楽しみきることができた充実の3日間だった!

 

早春の屋久島2泊3日縦走! 2日目:雨と風と宮之浦岳

はじめに

屋久島縦走2泊3日の記録。

 

1日目はこちら。

trthff.hatenablog.com

 

今回は2日目 3/24(日)、淀川小屋を出発して宮之浦岳の稜線を縦走し、新高塚小屋で宿泊するまで。

 

 

雨降る屋久島の朝

4時半には起床し、周りが明るくなる前に歩き出すべく準備を始めた。

 

早朝でも気温は10度までしか下がっておらず、睡眠は快適だった。森深い場所で保温機能が高いからだろうか。

 

一方で雨については夜通し降り続けており、朝には勢いこそ収まっていたが、これからも天候が改善することはなさそうな見通しだった。これからの縦走はおそらくずぶ濡れになるだろうから、朝にちゃんと体を温めておこう。

 

ということで朝食の後にホットコーヒーを一杯。文明の香りがする。

朝はやっぱりコーヒー

ほどなくして装備を固め、6時ちょうどには出発した。

今日目指すは宮之浦岳のその先、新高塚小屋

早朝の森

歩き出してほどなく、朝日が少しずつ森の中にも差し込んできてヘッドライトは必要なくなる。

ぶっとい杉と広葉樹が共存する

晴れていたら眺めが良いだろう岩の上

木道や木階段もよく整備されている、屋久杉使ってるのかな?

霧に包まれた神秘的な森で少しずつ標高を上げていき、花江之河に到達。

花江之河は屋久島では珍しい湿原になっている。標高1600mでありながら周りをピークに囲まれ、水が流れ込むためにこのような環境が形成されているようだ。

花江之河の手前にある小花江之河。こちらも立派な湿原

苔むす神秘の地

花江之河

しっとりした霧、そりゃここに湿地ができるわと

ちなみに、花江之河は屋久島南部登山道の結節点となっており、ここからなんと5つもの方向へ道が伸びている。

  • 宮之浦岳へ向かう上りの道
  • 淀川登山口へ下りる道
  • 石塚小屋を経由してヤクスギランドへ下りる道(花江之河登山道)
  • 栗生集落へ下りる道(栗生歩道)
  • 湯泊集落へ下りる道(湯泊歩道)

屋久島を縦走するならほぼ必ず訪れる場所になるだろう。

 

岩の頂、黒味岳

花江之河から10分ほど歩いたところで、黒味岳へ往復するルートへの分岐を発見。

黒味岳は屋久島で第六の標高を誇るピークで、往復には標準コースタイムで80分ほどかかる。

私は早朝に出発して体力も充実しているので、当然のごとく黒味岳方向へ分岐した。

 

分岐開始時点では森の中の道であったが、ほどなくして道は森林限界に到達し、宮之浦岳主稜線よりも一足先に開けた世界を体験することになった。

周囲に遮る木がなくなると、途端に強烈な風がこちらを襲ってくる。歩き続けられる程度ではあるものの、たまにバランスを崩しにかかってきたりレインウェアに雨を力づくで浸み込ませようとしてきたりと容赦がない。雨よりも条件を過酷にしているのがこの風だった。宮之浦岳縦走を終えて再び樹林帯に戻るまで風との付き合いは続いた。

 

森林限界を超えた世界

黒味岳までの道は主稜線と比べてもかなり険しく、張ってあるロープを頼らないと登れない急斜面が何個もあった。そのうえ、その多くは表面が滑らかな一枚岩であり、雨で濡れていることも相まってグリップを効かせるのに苦労した。

この一枚岩の大きさ・多さが屋久島の山々の一つの大きな特徴なのかもしれない。稜線を歩いていて周囲を見渡すと、かならずといっていいほど大岩が草原の中にそびえているのを見かける。そして、登山道はしばしば一枚岩の上を通り、登山者に油断を許さない。地形図がいくつものピークで不規則に凸凹しているのも、こういった岩の存在が影響しているのかもしれない。

大岩がたくさん

 

黒味岳もまさにそんな大岩の中の一つで、頂上を示す標識は岩のてっぺんにひっそりと固定されていた。

大岩の上をよく見ると...

こういう標識の方が環境の過酷さを感じてかえって達成感あるかも

残念ながら展望はガスにより望めないため、早々に本道への復路を辿り始めた。

宮之浦岳へ向けた本道へ再び合流したのはちょうど8時のことで、行動時間は大いに残されていた。これでは宮之浦岳を越えて新高塚小屋に行っただけでは12時にもならず暇を持て余すな、ということで永田岳への往復も視野に入ってきた。

 

束の間の九州最高峰、宮之浦岳

宮之浦岳へ向けた道もすぐに森林限界を超え、開けた道と植生に囲まれて閉じた道を何度も繰り返し、そして上りと下りも入れ替わりながら少しずつ標高を上げていった。開けた道では横殴りの強風と雨に耐えつつ、閉じた道でほっと一息といった感じである種リズミカルではあった。

開けた道 稜線が複雑なので、下ることもしばしば

岩に刻まれた十字の溝は人為的な目印か

神秘的な庭

こちらにもたくさんの巨岩

そうして一心に登っているうちに、9:24に宮之浦岳に登頂!

晴れであれば全周を見渡せたであろう視界の開けた山頂だったけれど、今回は残念ながらガスと暴風にお出迎えされる。

この雨風に歓迎される最高峰登頂というのも、それはそれでこの島らしいと思うところがあり実は結構楽しんでいた。こんな天候を予期して装備も計画も固めてきているのでなんら問題ないし、むしろウェルカムなのである。

山頂には反対側から来た登山者が2~3組ほどいたが、あいにくの風につきリラックスできるような余裕はなく、みな休憩もそこそこに行動を再開していった。私もその一人で、少々の感慨に浸った後はすぐに稜線歩きへ戻った。

 

ピークはどこだ、永田岳

宮之浦岳から下り始めてほどなく、焼野三叉路へ到達する。ここから西へ伸びる道は永田岳へと通じている。往復にかかる時間は黒味岳よりもさらに長く、標準コースタイムでは150分ほどあったが、迷わず往復へ向けて踏み出した。満喫するぞ!

永田岳へ向けた道の始まり。全体的に起伏がマイルド

黒味岳と比較すると道はあまり険しくなく、すたすたと歩いて行けたが、道がくぼみ気味なのが問題だった。

降り続ける雨によりくぼんだ道はどこもかしこも深い水たまりになっており、バシャバシャと渡っているうちについに私の登山靴が陥落、靴下までずぶ濡れになり始めた。GORE-TEXにも勝てないものはある。

天然のトンネル(足元は絶賛水たまり)

ウォータースライダーと化した登山道

それでも行程には支障なく、永田岳山頂付近にはすぐに辿り着いたが、もう一つのもっと大きな問題に出会ってしまった。山頂はどこ!?

登山道が伸びていった先に山頂部らしき岩場があったので、先行者の跡をたどって登りつめていくと辿り着いたのは大岩に囲まれた行き止まり。さすがにここが真の山頂ではないだろうと思って地図を見てみると、どうやら山頂へ向かう道は笹に閉ざされていて不明瞭で、かつ岩場とは別の方向にある?らしかった。

視界が開けない中でこれ以上山頂を探す気も起きず、ここまで来ただけでおおむね満足していたのであまり深入りせずに帰路に就くのであった。

この岩の上が山頂...?

岩場を登りつめた先。ここではないなあ

悠々の新高塚小屋到着

三叉路に戻ってきた時点でまだ11時。予定していた中で最上の成果を得つつこの余裕なので目論見は大当たりだ。

途中平石岩屋に入って雨風をしのぎながら軽食を取りつつ下っていき、ついに樹林帯へと戻った。

平石岩屋

このオーバーハングが頼もしい

ただいま樹林帯

巨大な杉が目に入りはじめる

ひときわ目立つ樹皮を持つ広葉樹。ヒメシャラというらしい

ヒメシャラパラダイス

屋久杉パラダイス

ヤクシマザルにも出会うことができた。道のわきにじっと控えて、逃げることもなく威嚇をすることもなく、おとなしくこちらを見つめていた。静かな邂逅だった。

ヤクシマザル

そうして12時30分には新高塚小屋に到着。結局時間は持て余すのだった。

 

巨大なテントサイト

トイレ設備

新高塚小屋

新高塚小屋は屋久島の山小屋で最も混雑すると聞いていたため、ある程度窮屈になることも覚悟していたが、到着時点で先客は1組。夕方になっても追加で2組がやってきたのみで、昨日と同じく2階をゆったり占有して寝ることができたのだった。

ちなみに、到着時点でまだ昼だったので、昼食も夕食もそれぞれ小屋の中で温かいものを食べられて贅沢だった。

寝付くまでの暇な時間は持ち込んだタブレットで小説(SFの『三体』)を読んで過ごした。本と違ってバックライトがあるので、薄暗くても読めるのが何よりのメリット。目は疲れたが。三体面白い。

 

最終日の3日目へ続く!

 

trthff.hatenablog.com

 

 

早春の屋久島2泊3日縦走! 1日目:屋久島上陸、安房から淀川小屋へ

はじめに

登山計画と事前準備はこちら。

trthff.hatenablog.com

 

今回からはいよいよ当日の記録を書いていく。1日目は屋久島に上陸し、淀川小屋で宿泊して翌日の縦走に備えるところまで!

 

 

飛んで屋久

屋久島までの移動は飛行機、それも羽田からの朝一番の便(鹿児島行き6:25-8:15 & 屋久島行き8:50-9:30)だ。そこで始発電車で羽田に駆け付けた。

実は初めてかも、羽田空港

1時間前には羽田に着いて余裕たっぷりだと思っていたのだが、それでも搭乗に遅れかけてびっくりした。

 

登山用のリュックが自動荷物預入機を通らなかったことがまずかった...リュックをコンベアに載せてコンベアが動き出すところまでは順調だったのだが、動き出した直後にコンベアが止まってうんともすんともいわなくなる。動かない原因を表示してくれないので解決法もよくわからない。しばらく苦闘したのちに、けっきょく特殊荷物預入カウンターに並ぶことになり、ここまでの一連の流れでかなりの時間を費やしてしまった。

 

保安検査場を通過したときにはすでに6:13(搭乗締め切り2分前である)。検査場から搭乗口まで猛ダッシュで向かったが、正直なところ半ば諦めの境地に至りながら走っていた。いっそ開き直りを決めてしまい「家で3連休を過ごすのも悪くないかな~」といった具合だ。

それだけに、搭乗口にぎりぎり間に合い搭乗客の列に並ぶのに成功したときには、屋久島に行ける嬉しさと早々に諦めてしまっていたばつの悪さがないまぜになってなんとも複雑な気分であった。

 

ひと悶着はあったが、なんだかんだで旅は始まる!

鹿児島行きはボーイング737-800。
ギリギリ間に合って息を切らしているくせに写真を撮る余裕はあった

乗り継ぎの鹿児島空港

屋久島を眼下に。あれは屋久島最大の町、宮之浦だろう

無事着陸 プロペラ機のATR72-600に運んでもらった。

屋久島空港。離島らしくこぢんまり、だが便数は意外と多い

屋久島空港を出て。ヤシ?の南国感と後ろにそびえ立つ山岳のギャップがすごい

鹿児島空港で乗り継いで屋久島空港へ到着。幸い天気は穏やかな曇りで、無事なフライトとなった。

 

空港を出た瞬間の第一の感想は「あったけえ」に尽きる。いまだ肌寒い日々が続く東京とはまるで違い、すでに春の陽気に満ちていて半袖でも大丈夫なぐらい。気温を測ってみると驚きの24度。標高が高いところではもう少し寒いだろうが、それでも快適な旅になりそうだ...!

 

もう一つ印象的だったのは屋久島という島の地形の特殊性だ。屋久島空港から一方を見ると大海原の水平線が広がり、その逆にはゴツゴツとした山塊が間近にそびえて市街地を見下ろしている。孤島でありながら一つの大きな山であり、人間はかろうじてその端に取り付いているにすぎないようだ。今からその山に分け入ることが楽しみになってきた。

 

屋久島空港売店では事前に聞いていた通りガスボンベが売っており、無事調達に成功。温かい食べ物飲み物には困らなそうだ。ついでに一口ようかん(たんかん・ぽんかん・安納芋)や黒糖ピーナッツといった現地のおいしそうな行動食を買いそろえた。

 

10:23には屋久島交通バスに乗って安房へ向かった。

 

屋久島第二の町、安房

屋久島南東部に位置する港町、安房

安房

安房川沿いに島内第二の規模の市街地が形成され、そばの台地上に神社が建っていたりと起伏に富んだ印象を受ける町だった。

安房港へ注ぐ安房

安房川の向こうには屋久島山荘

モスバーガーがある

その「そばの台地上に建っている神社」であるところの栗穂神社へお参り。

民家然とした社殿

美しいシャクナゲが寄り添う戦没者慰霊塔

このころから天気の均衡が崩れて雨が降り出す。雨は弱まる様子を見せず、しとしとからザーザーの領域へ突入。

亜熱帯らしい雨に歓迎される

山に入る前からレインウェアを濡らすのは不本意だったので、いったんモスバーガー安房店に避難、昼食をとりながらバスまでの時間をやり過ごす形に。都合の良いことに店内にはお土産売店が併設されていて、そこで傘を買うことができた。

 

もともと傘を持ち込むことは全く考えていなかったのだが、現地で買ってみて初めてその便利さを理解した。特に山小屋宿泊時、トイレなどで外出する際にレインウェアを着る必要がないことの快適さときたら!とはいえ普通の傘はかさばるので、雨が予想される宿泊山行では折り畳み傘を持ち込むのがバランスよさそうだ。

 

図らずも店内で地図を広げて計画の細部を詰めなおす機会を得たのち、13:38の紀元杉行バス便に乗り、いよいよ屋久島の中心部、山岳地帯へと踏み込むのであった。

 

山中へ

明るい葉の広葉樹と若い杉の混交樹林帯を走りながら徐々に標高を上げていく。

豊かな起伏

車窓から見える山々は起伏に富み、どの稜線がどのピークにつながるのか、登った先は果たして下りなのかも分からない変幻自在の山塊、さながら神々の実験場のようだった。地形図を見たときもそのピークの多さと不規則さを面白く思っていたが、やはり実際に目にした光景もそれ以上に面白かった。

途中に観光施設であろうヤクスギランドを通過して終点である紀元杉に到着。

バス終点

初遭遇のネームド屋久杉「紀元杉」樹齢約3000年

間近から スケール感が狂う大きさ
でも威圧感はなく不思議と和む


ここからは徒歩で舗装道を進んで淀川登山口に入っていく。今日の目的地はその先の淀川小屋だ。

山深さは増していく

淀川登山口

休憩所 逆方向からの縦走か、下山してきている人が大勢いた

登山口からは木の根と土メインの登山道が続き、ところどころで木階段や木道が設置してあるなかを1.5km歩いてほどなく淀川小屋に到着した。さすがに今日はウォーミングアップ程度ということでアップダウンも少なく、傘を差しながら歩いていた。

なんか画質が粗い、レンズが濡れていたか

宿泊 in 淀川小屋

15:50には淀川小屋に到着。外見は苔むした感じだが、中に入るときれいに使われていて清潔感のある拠点だった。

淀川小屋

そばに普通のトイレと携帯トイレブース

内部は廊下が中心に伸び、左右に2階構造の就寝スペースがある形になっていた。幸い、宿泊者は私を合わせて4組ほどしかいなかったおかげで小屋をあぶれることもなく、それどころか2階の3人分ぐらいの幅を取ってゆったりと宿泊できた。3月に来たのはこれがやりたかったからというのもあるので、目論見は大当たりだ。

 

標高が高いこともあって夜には気温が10度まで下がっていたが、寝袋+シュラフカバー+乾いた服によってぬくぬくと眠りについたのだった。

 

明日はいよいよ本格的に縦走が始まる。雨は降るだろうが、負けずに九州最高峰宮之浦岳を駆け抜けるぞ!

 

2日目へ続く。

trthff.hatenablog.com

 

早春の屋久島2泊3日縦走! 0日目:登山計画

はじめに

3/23(土)から3/25(月)にかけて、屋久島を2泊3日で縦走登山してきた。

縄文杉をはじめ世界自然遺産を誇る堂々の森林と、九州最高峰である宮之浦岳の縦走を満喫できた充実の3日間だった。屋久島らしく雨は多かったが、温暖な気候もあって万全の体調で歩きぬくことができた。

その記録をいくつかのエントリに分けて残そうと思う。

最初は0日目として、事前に準備した装備や登山計画について振り返る。同様に宮之浦岳縦走を考えている人への参考になればうれしい。

 

 

計画材料

3月における屋久島の気候

屋久島は、南西諸島と九州の中間という位置づけからもわかるように、3月にはすでに春を迎えて温暖になり始める。3月末ともなれば平均最高気温は20度に届き始め、最低気温も10度を下回らない暖かさだ。今年は暖冬なのでなおさら気温は高くなるだろう。

 

一方、天候は安定しないことが予想された。『山と高原地図』いわく、「3月中旬から4月上旬は『木の芽流し』と呼ばれる菜種梅雨の時期でぐずついた天候が続く」とある。とはいえ、この温暖さであれば、雨に降られ続けてずぶ濡れになっても低体温症のリスクは小さい。

 

なんなら観光客の数が激増するであろう4月以降よりは静かな山行が楽しめると期待できたので、3月末に屋久島を訪れることを決めた。

 

屋久島へのアクセス

屋久島へ到達するための交通手段は3つある。飛行機・高速船・フェリーだ。

 

高速船・フェリーともに屋久島までの便が出ている港へ移動する必要があり、そのうえで飛行機よりも長い時間をかけて船に揺られることになる。

 

鹿児島住みだったりしたらまた別だが、私は東京住みなので飛行機ほぼ一択である。早めに予約すれば料金もあまり高くならない。

 

そこで、JAL羽田↔鹿児島便とJAC鹿児島↔屋久島便を乗り継ぎで予約した。

鹿児島ー屋久島間はJACしか運航しておらず、またJACJALのグループ会社なので、JALのサイトから一括で乗り継ぎ便を予約してしまうのが一番手軽で分かりやすい。

予約したのが3か月以上前で、なおかつスペシャルセイバーを利用したので、往復でも3万円程度に収まった。

 

登山口へのアクセス

屋久島内での登山口への移動はほぼ屋久島交通の路線バスを利用することになる。

屋久島交通の時刻表は↓のリンクにすべてまとまっているので、これさえ見れば計画が立ってしまう。

https://yakukan.jp/wp-content/uploads/2024/03/taneyakubus-timetable_20240301.pdf

まつばんだ交通も運行しているが、基本的に宮之浦から荒川登山口・白谷雲水峡へダイレクトにアクセスする路線で便数が少ない。

https://yakukan.jp/wp-content/uploads/2024/03/matubandabus_timetable20240301.pdf

 

宮之浦岳を縦走するにあたって、主に利用できる登山口は白谷雲水峡・荒川登山口・淀川登山口になる。

白谷雲水峡へは屋久島第一の町である宮之浦からバス便が運行している。

荒川登山口・淀川登山口へは屋久島第二の町である安房からバスで行ける。

屋久島の主要な町と縦走登山口

ちなみに、バスでは現金支払いにしか対応していないうえ、新500円玉・5000円札・1万円札の両替ができないため注意が必要。1万円札などはあらかじめ崩して大量の1000円札を持ち込むのが望ましい。

 

縦走登山に必要な情報

山小屋事情

屋久島主稜線を縦走するにあたって宿泊は必須になる。

屋久島には有人営業山小屋は存在せず、要所に無人の山小屋が設けられているのみである。寝袋を持ち込んで雨風を避けて寝ることができ、トイレや水場も備え付けられているので活用できる。定員を超えた場合には小屋外のテントサイトでテント泊する必要があるので、小屋泊するにしてもテントは携帯していく方が望ましい。

 

ガスボンベの扱い

宿泊山行にあたって、バーナーを使うためのガスボンベもほぼ必須といってよい。

飛行機移動の場合は、ガスボンベは危険物扱いとなって島に持ち込むことができないため、現地で買う必要がある。

幸い、そのような登山者の事情を屋久島の方も織り込み済みのようで、屋久島空港売店イワタニプリムスの250g ノーマルガス缶が売っている。しかも、山行の後に使いきれなかった缶を持ち込むと預かって処理してくれる。至れり尽くせりだ。

 

なお、バーナーとガスボンベのメーカー互換性はあまり気にしなくていいようだ。私はSOTOのアミカスイワタニプリムス缶に挿して使ったが問題なく着火できた。

 

ここまでの事前情報を踏まえて、ついに計画が完成。

完成した登山計画

1日目: 3/23(土)

9:30ごろ屋久島空港→(10:23のバス)→安房→(13:38のバス)→紀元杉→(徒歩)→淀川小屋で宿泊

空港や安房でガスボンベと行動食・飲み物を調達。

2日目: 3/24(日) 縦走のメイン日

淀川小屋→宮之浦岳→新高塚小屋で宿泊

時間に余裕があれば黒味岳や永田岳の往復も組み込む。

3日目: 3/25(月) 屋久杉や雲水峡の観光日

新高塚小屋→白谷雲水峡に下山

その後はバスで宮之浦まで帰っても良いし、楠川歩道を通って自力で下山しても良い

増水で白谷雲水峡が使えない場合は荒川登山口へ下山して安房へ戻ることも視野に

 

事前準備したこと

  • 防水対策は徹底していった。
    • リュック内のあらゆる荷物をビニール袋に包んだ。
    • 行動用の衣服と睡眠・移動用の衣服を1セットずつ用意し、山行中はどんなに濡れても行動用を着るように、睡眠・移動用は乾いた状態を保つようにした。
    • レインウェアの撥水性を復活させておいた。
    • ダウンの寝袋は濡れで機能低下しやすいので、濡れ防止のためシュラフカバーを買った。
  • 食糧計画

実際に辿ったルート

当日はおおむね計画通りに行動することができたが、時間に余裕があったため寄り道した部分もあり、たどったルートは下図のようになった。

青:1日目 赤:2日目 白:3日目
直線はバス移動、曲線は山行

次回のエントリからはいよいよ1日ごとに山行を振り返っていく。

1日目へ続く!

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