3日目
はじめに
本エントリは黒部源流域縦走の4日目、8/13(火)の記録である。
三俣蓮華岳キャンプ場を出発して、鷲羽岳・水晶岳・雲ノ平をすべて堪能する!
4日目:山行のクライマックス、黒部源流フルコース
驚異の天候運
今朝も見事に晴れ!4日連続で晴れの朝を迎えるという空恐ろしい強運を発揮している。いや、運だけじゃなく頑張ってくれている小笠原高気圧に感謝すべきか。
こんな晴れの中で山行のクライマックスを迎えられるのはうれしい限り。じっくりと満喫したいので、早めにテントを畳んで5時になる前に出発した。
鷲羽岳のチャームポイント発見
最初はさっそく鷲羽岳への上りだ。三俣山荘を出てすぐに上りが始まり、山容からもわかるように急登とも緩斜面ともつかない一定の斜面が続く。
丁寧に九十九折りの道が敷かれていることもあり、さして辛さも感じずに登頂!
山頂部は大きな広がりを持っており、同じく三俣山荘を出発してきた登山者が10人近く休憩していた。
山頂の南東端に寄って下を覗き込んでみると、山頂に来て初めて見ることのできる鷲羽岳のチャームポイントを発見。鷲羽池だ。
池そのものよりも大きなお椀状の起伏に囲まれた目玉焼きのような配置は面白く、澄んだ水がお椀内部の砂地や草原となすコントラストによって魅力的な庭となっている。あそこに下りるルートも一応存在するらしい。今回はチャレンジする気はないが、左側に走る道らしき筋がおそらくそれだろう。
一息ついた後に山行を再開。鷲羽岳のすぐ奥に立つスリムな岩峰ワリモ岳をサクッと越えて北分岐までたどり着いた。
水晶岳ピストンはガスに包まれて
ワリモ北分岐から、息をつく間もなく今度は水晶岳へのアタックだ。ピストンなのでザックをデポし、持ち込んでいたアタックザックに最低限の荷物を入れて動き出す。軽い!
ワリモ北分岐から水晶岳への標高差は実はかなり少なく、たった100m程度しかない。前半部はほぼ平坦といってもいい広い尾根が続いて気楽な散歩だ。水晶小屋を越えて終盤に差し掛かったあたりでようやく岩場の急斜面が始まり、梯子を登る場面も挟みながら登頂した。
あいにく、ピストンの間ずっと水晶岳周辺がガスに包まれており、展望を楽しめなかったことだけは残念ポイントだった。とはいえ、ここまで通ってきたピークの全てで景色が開けていたことの方がむしろ異常だったので一つくらいはこんな体験があってもまあいいだろう。完成してしまえば崩壊が始まる建物に逆柱を仕込むのと同じだよ、同じ (?)。
水晶岳山頂からは北へも長く稜線が続いており、赤牛岳を経て最終的には黒部湖へ下りる読売新道が敷いてある。高みから眺めてばかりいる黒部湖もいつかは間近で見たいので、そちらを目指す山行も楽しそうだ。
あまり山頂で粘る気もなかったのですぐにワリモ北分岐へ戻ったが、ザックを背負いなおして祖父岳へ歩き出した頃合いになんと朝からず~っとかかっていた水晶岳周りのガスが晴れる。
久しぶりに山の気まぐれに一本取られたな。
気を取り直して次の目標は雲ノ平だ。
ワリモ北分岐からは一度岩苔乗越の鞍部を挟んで祖父岳へ登る。祖父岳はその穏やかな見た目に反して存外登りを要求してくる。雲ノ平まであとは下るだけ!みたいな心持ちで歩いていたせいで実態以上に苦労した。
祖父岳山頂に着いてしまえば、あとは正真正銘下るだけだ。
溶岩がごろつく斜面を雲ノ平へ下りていくと、途中で木道の分岐が出現。
雲ノ平へ続く道のほかにも、祖父岳を巻いて「日本庭園」と呼ばれる場所に続く道が伸びていたので、まずはそちらに寄ってみることにした。溶岩や草原に囲まれた中央に白い砂が露出しており、これは確かに日本庭園かも。
30分ほど寄り道した格好になるが本道に戻り、木道をしばらくたどってようやく雲ノ平に到着した。
庭園も山荘も楽しい、雲ノ平
開発が最も遅れ日本最後の秘境と呼ばれた雲ノ平。
溶岩台地としての性質も併せ持つここは、山中に突如広がる平地の中を溶岩・ハイマツ・チングルマを始めとする花々が自由に入り乱れ、確かに秘境の庭園と呼ぶべき眺めを作り上げていた。
そんな庭園に唯一立つ建物は雲ノ平山荘。景色に馴染み、あたかも最初から雲ノ平とともに生まれたかのようにごく自然にそこに立っていた。
鷲羽岳・水晶岳・祖父岳と何度もアップダウンを繰り返しているのでそろそろ休みたい。雲ノ平山荘で食事休憩を取ることにした。
食堂には魅力的なメニューが並ぶ。デザートや飲み物も充実していてよりどりみどり、どれを頼むか迷ったので本日のおすすめを参考にし、台湾風チキンライスを注文した。
雲ノ平山荘は木材の風合いを生かした柔らかな印象の内装が特徴的で、食事が出るのを待っている間も腰を落ち着けてリラックスすることができた。
台湾風チキンライスは酢の酸味とごま油の風味が適度に効いて鶏の旨味を生かしており、とても美味しかった。疲れた体にやけに沁みて食が進んだので、雲ノ平バーガーと迷ってこちらを選んだのは正解だった。ちなみに、雲ノ平バーガーは曜日限定かつ1日5食なのでレアキャラらしい。
これで注文は終わりにしようと思っていたのだが、食後のコーヒーも好きな風味だったので気が変わってきた。デザートまで満喫しよう。ということでアプリコットパウンドケーキと紅茶を追加!
高山の最奥部とは思えないほど安穏とした空間の中で優雅に食事を味わえたことで、ここまでテント泊で稜線を繋いできたある種の緊張感が一気に解きほぐれた。それと同時に、ああこの縦走も終わりに近づいてきているのだな、と感慨に浸るのであった。
食事を終えて11時半を回るころ、空には雲が目立ち始めた。実際、予報では午後に天候が悪化するとのこと。雨が降り出す前に今日の宿泊地たる薬師沢小屋へ着くべく、雲ノ平を離れて標高を下げていった。
雲ノ平の木道が途切れてから薬師沢小屋までは水平距離こそ非常に短いが、樹林帯の滑りやすい急坂ゆえにかなりの注意を要した。
遊び心をくすぐる薬師沢小屋
13時には薬師沢出合へ到着。雲がどんどん厚みを増していく中、幸い雨には降られずに行程を全うすることができた。
薬師沢小屋は沢をまたいだ向こうのひときわ高くなった場所に位置している。たどり着くためには沢岸から梯子を登ったうえで吊り橋を渡る必要があり、アスレチックのような遊び心をくすぐる小屋であった。黒部源流域のたくさんの沢へのアクセスポイントでもあるため、釣り人や沢登りの人が多いことも特徴のようだ。
小屋前にはテラスがあり、轟轟と流れる薬師沢を見下ろしながら沢水で冷えたキリンレモンを飲む。
二階にもバルコニーが設けてあり、そちらから見下ろす小屋前の様子もまた風情があった。
チェックインして荷物を整理し一息ついたころだろうか、ついに天候が崩れて雨がぱらつき始めた。ギリギリセーフ。雲ノ平山荘での休憩も含めてタイムキーピングが成功、私にも夏山の機嫌の取り方が分かってきたのかもしれない。
そのうえ、雨の最終宿泊日にテントじゃなく山小屋泊というのもたいがい奇跡だ。屋根を打つ雨音を聞きながら悠々と本を読み、布団に入って寝られる喜びをかみしめて夜を明かした。
つづく
5日目最終日へ続く!下山も1日掛かり、余韻を残して折立へ。