思念の滝壺

山に登る。

両神山登山録~その登山、本当に確実ですか~

8/31に両神山を日帰りで登山してきたので記録する。

 

両神山に決めた経緯はこんな感じ。

「前回の北岳は経験も積めたけど、反省事項が多かったな」

「もっと近場、難易度は少し下げた山で地図を見る練習しつつ山を登る経験自体を増やしたい」

「なら日帰り圏、標高2000m以下、でもできれば百名山がいい」

「・・・両神山に決定!」

 

前回の反省を踏まえ、今回の登山のテーマは「確実な登山」ということにした。

道を確実に見つけ、確実なペースで歩みを進め、アクシデントのできるだけ起こらない安全な登山を実現する演習にしよう。

リュックも薄めにして日帰り仕様の軽量装備にし、地図とコンパスをすぐに取り出せる準備を整え出発した。

 

 

山行録

8:20 三峰口駅

始発で出発してこのくらいの時間。後で調べると、西武秩父駅からバスの乗り換えをすることで日向大谷まで直で行けたっぽい。

西武秩父駅からこの辺は自分の郷里よりもインフラの老朽化感や過疎感が目立っていた。たぶんだけど昭和に東京近郊の観光地として栄えた後、緩やかに衰退してインフラ更新がうまくいっていない感じなのだろう。秩父って関東平野から外れた盆地だったんだね。今日調べた。

秩父鉄道サイクルトレインなるものがあってロードバイクに優しいので、今度自転車でも訪れてみたいところ。

9:50 日向大谷バス停から出発

天気はがっつり曇り。ただ雨が降る気配はない。前日に雨が降ったのか地面はかなり湿っていた。これが結構な曲者となる。

この辺は出発したてで余裕があることもあり、地図とコンパスを常に手元に置きながら現在位置と地図を照合し続けて進んだ。タイムは遅くなったが、ルートを全く間違うことなく行けたので成果はあったといえそう。

こういう雰囲気の道が森林の中を続き、川を渡ったり渡らなかったりする

10:26 会所

七滝沢コ―スとの分岐地点。地図でも書いてあるので分かっていたが、七滝沢コースは現在通行止め。予定通り表参道ルートを進む。

表参道ルートは産泰尾根の左を流れる薄川沿いを緩く登っていき、やがて尾根に取り付いて山頂を目指すルートになっている。薄川右岸を基本は進むのだが、途中2回左岸に渡る場面があった。これは地図に書いてあった通りで、予習していたため問題なく進んだ。

この辺から分かり出したのだが、この山、この状況では主に3つの障害が立ちはだかっていた。

  • 森林(広葉樹と杉林の混合)が鬱蒼としているため、昼間でも薄暗い。曇りだったことも影響しているが
  • 前日の雨で湿った岩がとんでもなく滑る。しかもルート上に表面が平坦かつ傾斜が急な一枚岩が多数あり、その上を通行するのに格段に気を遣う必要があった。
  • 同じく湿った木の根が岩ほどではないが滑る。

特にこのコースでは鎖場がそこそこあるとされているため、岩に関しては割と問題になるだろう。気を引き締めた。

清滝小屋の手前で弘法の井戸を見つける。水補給地点!

弘法の井戸。

11:30 清滝小屋到着

清滝小屋のあたりから、いよいよ尾根に取り付いて急坂を登り、その後は鎖場をクリアしながら神社を経由して山頂を目指すことになる。

ただ、清滝小屋を過ぎた直後の道で問題に会う。これについてはインシデントとして後述する。まあ結果的には怪我無く少しの時間のロスで本来の登山道に復帰できた。

肝心の鎖場はというと、実のところそれほどの困難は感じなかった。2つほどあった巨大な一枚岩の急坂を登る箇所を除くと、鎖を使わなくても問題なく上り下りできる程度で、意外と優しいんだな~と思うなど。

この辺からようやく本格的に晴れだし、かつ濡れていた岩も少しずつ乾き始めた。

12:47 両神山

鎖場を突破したのちは、神社を過ぎた後にそれよりも緩い上りをクリアしてすぐに山頂と相成った。

日帰りできるわりにそこそこの標高。

今回「確実な登山」というテーマもあって、ゆったり時間を使って帰るつもりだったので山頂ではまったり休んだ。高峰と違って山頂でもあまり寒くないのがいいところの一つだな。

山頂に雲はかかっておらず周りを見渡せはしたのだが、富士山など遠くの山は雲にさえぎられて見通せなかった。

山頂付近から見えた南東の出っ張り。

甲武信ヶ岳あたりの山が見えた。富士山は残念ながら。

13:07 下山開始

20分ほど休んでいたことになる。体感ではもっと休んでいるんだけど、山での休憩は意外と時間が短い。

ここまで慎重に歩を進めて分かったこととして、上りのときと下りの時では特に注意すべき点が異なる。特に自分に作用するバイアスという認知的側面において。

上りの時は、高い運動量で息が切れて心拍が上がっても、周りを見渡す目だけは冷静に保ち続けなければいけないという点が最も重要に感じる。下りの時は、上りよりも尾根を見失いやすい可能性を考慮して、常に視点を高く保っている必要がある。

また、15:10にバスが出ることが分かり、また13時出発で現実的に間に合いそうな範囲だったので適度に急いで下りることにした(さすがに北岳下山時のいかれたスケジュールのまずさから学んでいる)。急ぐといっても、滑りやすい危険な道状況を踏まえて、本当に安全な場面でだけ歩幅を大胆に広げ、それ以外では道を凝視しながら常に足運びを丁寧に考え続けた。

井戸水どんな感じなんだろう、補給に使えるかな?ということで下山時に弘法の井戸の水をボトルに詰め、帰りに飲むことにしてみた。腹を下すかどうかはブログを書いている現在分からないが、すくなくとも味は清浄な水でごくごく飲めた。エキノコックスも気になるには気になるが、さすがに本州は埼玉県まで拡大していないと思いたい。

15:05 日向大谷バス停到着

極度に急がなくてもしっかり15:10バスに間に合った。今回は下までちゃんと着替えることができ、また体力にも余裕があったので悠々とした帰路になった。

日帰りで軽装なのもあってiPadを持ち込めていたので、書籍を読みながら電車に揺られることができて快適!

19:30 帰宅

左膝の内側の腱がやや負担を感じていたので、左右均等に使えていなかった疑惑があり反省。もしつつ、お土産の食べ物を買ったりしてホクホクでもあった。

山の難易度を改めて振り返ると、岩が濡れていなかったら三頭山と同程度なんじゃないかな?というぐらいにはあまりきつくない斜度と距離ではあった。ただ、岩が濡れている今回のコンディションでは、鎖場もそこそこの緊張感を伴って目の前に立ちはだかり、やる気を掻き立ててくれるアクセントとなっていた。八丁峠ルートなんか行ったらもっと刺激的なんだろうな。怖いので当分行かなそうだが。

インシデント分析・検討・反省

クサリ場ルート誤解インシデント

北岳で遭遇した草スベリ誤解とも微妙に異なる、正直初めてのインシデントだったと思う。言い訳か?いやそうでもない、登山道とそれ以外の道の弁別には注意していたつもりでありながら遭遇したので、わりあい新しい部類の問題だと思っている。

端的には「道を間違えた」だけの問題である。

詳細を述べると、清滝小屋を抜けてすぐのところ、崖がほぼ垂直に切り立つところに鎖が垂れており、その鎖を見た瞬間にそこが登山道だと思い込んでかなりの急坂(一枚岩なので滑りやすい)を登った。その先には道はなく、正しい道はその崖を迂回してジグザグに登る道だった。結局鎖を駆使して崖を下り、正しい道に合流して事なきを得た。

切り立つ崖に鎖。こんな登山道はないと気付け

崖の上を見上げる。圧迫感。先に道がないことも冷静に見ると当然分かる

手前に存在した分岐(下山時に撮った)。左が崖、右がそれを迂回する正式な登山道。
原因

副次的なものは複数考えられると思うが、それらの上に最大の原因が一つあると考えている。

  • このルートが鎖場という前情報を元に、鎖を見つけたらそこが登山道という思考回路が形成されていた。その結果、「うわー鎖場ってこんな本格的な道登らせるんだ、ちょっと怖いな、でもがんばろ!」と張り切って視野が狭くなり、過酷な崖であるにもかかわらず疑問に思って周りを見渡さなかった。

このバイアス、鎖場という概念を初経験だからこその認知の歪みが最大の原因だったと思われる。

それに付随した副次的な原因も分析しておく。大事なので。

  • 地図に書かれていた鎖場は、急登を終えて尾根に取り付いたのちに訪れるものだった(実際そうだった)。なので、急登が来る前、清滝小屋を抜けた直後に出会う鎖は順序が逆なので本来の登山道ではないという気づきがあるべきだった。
  • ここに到達するまでにも一度本格的な鎖場(で濡れた一枚岩を登るなかなか怖い箇所)があり、それにもまた鎖場脳にさせられていた。
  • こういう崖は普通の登山道ではありえないという相場感覚が養われていなかったこと。前回も同じことを書いたような気がするが、沢と鎖場の崖ではまた異なるので、また新しい登山道のスタンダードを学べたということにしておこう。実際、本来の登山道では鎖場はあれど鎖が無くても登れるレベルのところが多く、崖など一つもなかった。

前回(北岳)インシデントは今回どうだったか

  • 登山道と沢の勘違いについては今回は全くしなかった。地図との照合を丁寧にやったため。
    • 今回の表参道ルート。会所から清滝小屋にかけて、複数の「登山道ではない道」が分岐して走っている(グレーの破線)。これらに迷い込まないよう注意した。
  • 脛のひっかけについては一回だけあった。下山中、歩きながら後ろを振り返った瞬間に左脛を少しこすった。振り返るなら立ち止まってすること。
  • 靴紐は輪の部分を小さくしたため、ひっかかるようなことはなかった。
  • 帰り道では、足を滑らせないよう可能な限りの努力を払いながら、残った余力でペースを上げたので「慌てず急ぐ」を体現できていたと思う。

持ち物・飲食物関連

  • 行動食はカントリーマアム1袋で済んだ。おいしいね。
  • 水分は合計1.6Lで臨んだ。結果的にちょうど消費しきれる量だったので日帰り登山、獲得標高1000m程度の山行にはこのくらいがいいのかも。ただし、帰りのバスで井戸で汲んだ追加の500mLを飲んでいるのに注意。
  • 腕時計は忘れた。鎖を事故無くつかむためには手袋があるといいかも。地図をすぐに見れる場所に置くツールか何かが欲しい。

総括

北岳の反省を踏まえて乗り出した日帰り登山、初めてのミスを経験して実力はまだまだでありながらも、前回の問題で改善できた点も多く、実りの多い山行だった!

 

次もさっくり日帰り登山がしたいところ。神奈川の方になかったっけ?