思念の滝壺

山に登る。

横浜マラソン2026で大撃沈

 

横浜マラソン2026に参戦

10/25(日)に横浜マラソン2026に参加してきた。種目はフルマラソン、42.195km。

期待と不安に満ちる出発前

 

今年3月に走った板橋マラソン以来およそ半年ぶり、3回目のフルマラソン出場となった。板橋マラソンで3時間15分を切れた勢いに乗って、次の目標はサブ3、すなわち3時間切り。

 

ただし今回の横浜マラソン、暗雲が立ち込める。

当日の気温は8時30分時点で23℃程度まで上昇。最高気温は26℃の予報と、季節外れの暑さに襲われていた。湿度も非常に高く風もあり、マラソンを走る上ではかなり過酷なコンディションでのスタートとなった。

では結果はというと...

 

疾走・失速・撃沈

ダメダメだった。とほほ。

正確なタイムを書くと本名が特定できてしまうっぽいので、3時間40分を切る程度だったとぼかしておく。

完走証

 

20kmまではサブ3のペースランナーにぴったりついていったが、折り返し地点で力を使い果たし、ペースの維持が不可能に。それ以上ついていくのを断念して集団から脱落、その後はジョグと歩きを繰り返してとりあえずゴールするのだった。

 

事前の練習ではマラソンペースで20km走ってもまだ余裕を残していた経験があるだけに、暑熱環境がパフォーマンスに与える影響の大きさを思い知った。

 

また、ペースランナーに頼り切りで、実際に適正なペースになっているか疑わなかったことも反省点だった。実際、最初の5kmは平均4'03/km、前半21kmで見ても平均4'11/kmと、サブ3の平均ペースである4'15/kmに比べると大幅に速くなっていた。これだけ想定より速いペースで突っ込んだら後半失速するのも無理はない。

ペースランナーといえども完璧にペースを管理できるわけではなく、自分でもタイムを確認して集団から外れる決断も必要になることを学んだ。

 

振り返り

本番に至るまでの過程を簡単に振り返ってみる。

 

練習

サブ3を目指すにあたって、4月ごろからマラソンに特化した練習メニューを組んだ。

  • 週1回の閾値走
    • 最大10kmを主観的にきついペースで走る (最大心拍90%程度) 
    • いわゆる乳酸性作業閾値を引き上げ、ハイペースで走っていても血中乳酸を処理し続けられるようにするための練習。スピード維持力を向上させる
  • 隔週のロング走
    • 20km ~ 30kmをジョグのペースで走る 
    • 長時間足を動かし続ける持久力をつけるための練習。マラソンに特化した距離耐性を身に着ける
  • それ以外の日はジョグ
    • 6kmか12kmを交互に
    • 最小限の負荷で練習間の回復を促進しつつ、総走行距離を稼ぐための練習。全ての基礎

サブ3を目指すランナーはインターバル走を練習に組み込んでいる場合も多いが、私の場合は不要だと判断した。

インターバル走で鍛えられるのは主に最大酸素摂取量(VO2max)だが、VO2maxはサブ3を達成するために必要な分は備わっており、それよりも乳酸閾値と距離耐性が課題だったからだ。また、閾値走にも副次的にVO2maxへの効果があるため、それで十分だと考えた。

 

本番の1ヶ月前ごろからは本番を見据えたロング走を実施。

  • マラソンペース20km
  • ジョグ20km+マラソンペース10km
  • ジョグ10km+マラソンペース20km

と徐々に負荷を上げて本番に近づけていった。

 

テーパリング・カーボローディング

本番2週間前からは練習量を減らすテーパリングを実施。

練習の頻度と質は落とさず、距離だけを半分にすることで動きのキレを保ったまま疲労を抜いていき、本番をピークのコンディションで迎えるための戦略だ。

 

3日前からはカーボローディングも実施。

後半のエネルギー切れを少しでも防ぐため、体にエネルギー源であるグリコーゲンを大量に蓄える手法だ。食事をうどんやパスタなど高糖質食品メインに切り替え、1日600g程度を目安に糖質を摂取。グリコーゲンは水とともに蓄積されるため、水分補給もいつもより多めにした。

個人的に、夕食に糖質を取りすぎると翌朝の寝覚めが悪くなるため、本番前日の夕食だけは控えめに。

 

本番当日

当日は8時半スタートなので、5時に起床してすぐに朝食。

消化の良い高糖質食としておにぎり3個とバナナ1個、オレンジジュースをとった。

 

7時には会場入りして早めに準備。着替えを済ませたところでinゼリーエネルギー1個を追加で摂取して本番へ臨んだ。

 

レース戦略

サブ3ペースランナーに最初から最後までついていき、ひたすら一定ペースを刻む戦略で臨んだ。

 

補給にはアミノバイタル アミノショット パーフェクトエネルギー3個を携帯。これだけでは糖質が足りない可能性もあるので、給水所のスポーツドリンクで補助することを前提にした。

www.ajinomoto.co.jp

 

シューズ

ランニングシューズはアシックスのものを愛用している。

 

練習用にはNOVABLASTシリーズのWIDEモデル。

www.asics.com

クッション性が非常に高く、ロードで長距離を走っても足への負荷が少ない。グリップもそれなりにあり、耐久性も高いので日常での取り回しが良い。それでいてキロ4分ペースにも難なく対応できる。万能なので閾値走もジョグもロング走も全部これで済む。

最近は寿命を長くするため、2足常備して交互に履きまわしている。なんでもこうした方がミッドソールのクッション性を回復させる時間を長くできるとか。

 

レース本番や直前のペース走にはMETASPEED SKY TOKYOを投入した。

www.asics.com

どこかモチモチとした踏み心地とカーボンプレートならではの高反発で、自然な感覚で走っていてもハイペースを維持できる。今回はあいにくの結果だったのでポテンシャルをフルに生かし切れていないはず、シューズに負けない成果を出したい。

 

反省と今後に向けて

過酷な条件の中でもハーフをサブ3ペースで走れたことから、少なくとも3月時よりは走力が大幅に向上しているはず。練習方針は大筋では合っているといえそうだ。

秋冬が訪れランニングに適した気温になっていくので、練習の量と頻度をやや強化して継続したい。

  • 週1回の閾値走を継続。能力向上に合わせて設定タイムを上げていく
  • ロング走の頻度を週1回に。疲労に応じて距離は調整するが30kmを目安に
  • 繋ぎのジョグを1回あたり2km程度延長

 

テーパリングにどれほど効果があったかは未知数だが、デメリットもないので次回も実施して良さそうだ。練習量を増やすならなおさら必要性は高まる。

カーボローディングは前回の板橋マラソンで効果を実感済みなので続投。

 

本番のペース戦略・補給戦略については過酷なコンディションによって崩れた側面が大きい。自分に適した戦略のはずなので次回もこれで行く。

 

おわりに

途中雨が降る中でも大会の運営に尽力してくださったスタッフ・ボランティアの方々、沿道で応援してくれた皆さんに感謝!

サブ3ペースで走っていたときには応えられなかったけれど、ボロボロになって歩きとジョグを繰り返していた終盤の応援が本当に心に沁みた大会だった。

 

次はさいたまマラソンに出場予定。頑張るぞ!

 

槍ヶ岳・北鎌尾根ソロ踏破 後編:北鎌独標~槍ヶ岳~下山

前編はこちら

trthff.hatenablog.com

 

はじめに

北鎌尾根挑戦の記録、後編。

北鎌のコル付近のビバーク地で夜を明かした3日目、いよいよ北鎌尾根の核心部へ踏み込み、槍ヶ岳の頂を目指す!

 

 

3日目:北鎌独標~槍ヶ岳~下山

北鎌尾根で迎える朝

尾根上で宿泊したおかげで核心部は間近にあり、行動を急ぐ必要はない。朝焼けに照らされる北鎌独標や大天井岳に見入るひとときを堪能。ここで宿泊するからこそ得られる貴重な眺めだ...

朝焼けの独標

後光差す大天井岳

北へ連なる山々

すっかり明るくなってから起き出してテントを撤収し、6:30に山行を開始した。

朝日の北鎌尾根

6:30 出発

ビバーク地の正面に聳えるピークは天狗の腰掛。そこへ登り上げると、いよいよ北鎌尾根の中でもひときわ目立つ巨大な岩峰である北鎌独標が間近に現れる。ピラミダルで威風堂々、槍ヶ岳とはまた違った格好良さがある。

天狗の腰掛へ

北鎌独標

空は綺麗に晴れており、右へ視線を移すと黒部源流域の山々、鷲羽岳・水晶岳・赤牛岳も近くに望める。

鷲羽岳・水晶岳・赤牛岳

西鎌尾根から北方向に分岐して赤褐色の山肌を見せる特徴的な尾根は硫黄尾根。

硫黄尾根

 

さて、景色を楽しみつつも独標は近づいてくる。独標のアプローチ方法には様々なパターンがあり、直登することもできれば、最後までトラバースすることもできるようだ。

複数の山行記録を比較したうえで、今回は最もリスクが低そうな「途中までトラバースしてからの回り込むような直登」を選んだ。

 

独標の右側にはトラバースのラインがはっきりと見える。まずは基部の取り付き点へ向かうのが先決だ。

独標右側

トラバースのライン

右側にトラバースするといっても、安易に巻き道らしき踏み跡へ踏み込んでしまうと本来の取り付き点よりもずっと下に出てしまうらしい。

独標基部へ辿り着くまでは忠実に稜線を辿り、踏み跡は基本的に信用しないことに。多少険しい岩登りでも正面から越えていった。

結果的に稜線で行き詰まるようなこともなく、無事にロープが残置された取り付き点へ到着。

トラバース取り付き点

しばらくは幅の広く安定したトラバース道が続く。独標のいかつい見た目から受ける印象とは裏腹に、それほど高度感もなく気楽なのはありがたい。

安定したトラバース道

振り返って

トラバースがやや登りに変わった後に「逆コの字」が出現。ここは岩壁に四角形に空いた隙間を通過する難所だ。

逆コの字

コの字部分を通り抜けようとするとザックが引っ掛かりそうな狭さだが、幸い一段下にも安定した足場がある。そちらに足を置き、手は残置ロープとコの字に置きながら三点支持で通り抜けた。

 

逆コの字を抜けてほっとしたのも束の間、今回は直後に現れるチムニーを独標へ向けて直登していく。

独標へ向けてチムニーを直登

登ったライン

見た目は垂直に近い岩壁に見えるが、取り付いてみると手足は豊富で意外に登りやすい。この先不安定さが増していくトラバース道にこだわるよりも個人的には楽な道のりだった。

そして独標へ登頂!

 

7:40 北鎌独標

独標

 

独標ではのどかな平地が広がり、稜線の刺々しい岩が散乱する光景とは打って変わった平和な世界。目指す大槍もついに見える最高のロケーションだった。

そして、ここから見える槍ヶ岳こそが一番格好良いかもしれない。鋸のように激しくアップダウンを続ける北鎌尾根が、導かれるように一直線に槍ヶ岳へ向けて伸びていく。大槍の右に従えられた小槍も合わせて、全体として均整が取れた絵画のような角度だった。

独標に登って良かったと心から実感したのだった。

 

見渡すと、東には魅惑のシルエットを持つ常念岳。

常念岳

西には双六岳・三俣蓮華岳も。

双六岳・三俣蓮華岳

どうやらパノラマを楽しめる締め切り時刻にギリギリ間に合っていたようで、独標登頂の後から次第に稜線がガスり始めた。

ガスの兆候を見せる大槍

ガスってしまうのは少し残念だが、尾根の全容を楽しむことができたので文句はない。感謝の気持ちを胸に山行を再開する。

 

独標を出た直後、独標を巻くルートを選択していた先行パーティを追い越した。人数は8人ほどだっただろうか。北鎌沢出合で宿泊し、私よりもかなり早くに行動開始していたようだ。

 

さて、いよいよ核心部の尾根歩きが始まる。主要なピークには通し番号が振られており、独標はP10、大槍手前の最後のピークがP15と呼ばれている。ただし、P10~P15以外にも細かいピークは無数にあり、数えていたらきりがない。

無数のピークを越えていく

ここからは稜線通しが正解という原則を頭に入れて臨んだ。巻き道らしき踏み跡があったとしても結局行き詰まって時間をロスすることが多いらしい。これは岩峰が垂直気味に突き出しており、巻く余地の少ない北鎌尾根の性質によるものなのだろう。

実際、踏み跡を信用せず、よほど急峻なピーク以外はまっすぐ稜線を貫くことを心掛けてみたが、行き詰まることは基本的になし。スムーズに尾根を歩きぬくことができた。一方で、稜線を登り上げてから巻き道らしき踏み跡を見下ろしてみると行き先が崖か不安定なトラバースになっていることが多く、稜線通しが大正解すぎて歩きながら思わず笑った。

P13ぐらいまではどこがどのピークなのかよく判別できなかったのだが、各ピークが印象に残らずサクッと突破できたのはむしろ稜線通しの戦略がうまくいったことの証左なのだろう。

これはさすがに巻く

ついに穂先がガスに

 

 

P14は事前に調査していた写真と照合して判別できた。

ここは他と比べて脆い岩壁をクラック沿いに登ることになる。それほど険しさはないが、浮石・落石には最大限に注意して手足を運んだ。

P14の一段目。クラックを登る

P14を振り返る

P15はP14よりも険しい登りを要する。どうやら巻くルートもあるにはあるらしいのだが、探して時間をロスしたり迷ったりするのは避けたい。稜線通しの原則を徹底し、多少険しくても迷いなく登りさえすればよい直進を選択した。

P15へ

P15の頂部には多数の捨て縄が巻かれた懸垂始点がある。

懸垂始点があるほどなので、よほど下りるのが難しい岩壁なのだろうという先入観があった。しかしいざ立ってみると、疲れていなければ問題なく下りれる程度に手掛かりが豊富な斜面だった。

懸垂下降装備を持ってきているとはいえ、懸垂下降せずともいける場所で時間をロスしてまでやることではない。普通にクライムダウンした。

懸垂始点

これで尾根上の主要なピークをすべてクリアし、ついに大槍手前の平地である北鎌平へ到着。

 

9:20 北鎌平

北鎌平

北鎌平でほっと一息ついたのち、大槍へ向けたラストスパートが始まる。ガスって視界は効かないが、稜線沿いに一心不乱に行けばいいので分かりやすい。

山頂へ向かう

大槍基部へ取りつくための上りもなんだかんだで険しい岩登りが続く。この尾根、手足を使う場面が多いので、普通の山歩きよりもクライミング寄りの特殊な体力を要するかもしれない。

 

ようやくたどり着いた基部では、細く尖った岩が2本並んで左上に突き出している。これがカニのハサミと呼ばれる目印で、大槍への取り付き点の目安として知られている。

カニのハサミ

カニのハサミへ向けてまっすぐ進んでいったあと、レリーフを通り過ぎたあたりで大槍に取り付いた。

レリーフ
「穂先は近い 気を抜かず頑張れ」

最初は階段状の簡単な岩場がしばらく続く。

 

だがこれだけで終わるはずもなく、大槍の最後の難関として2段のチムニーが出現する。

 

1段目のチムニーはこんな感じ。

1段目のチムニー

比較的手足が多く、力を入れる場面もあったが総じて安定して突破することができた。

 

2段目のチムニーは緊張で写真を撮り忘れてしまった。有名な難所なので、気になったら検索してもらえれば写真はたくさん出てくるはず...

細い空間を垂直に登る必要があって足の置き場が少なく、両手にほぼ全体重をかけて思い切ったムーブをしなければならない瞬間があった。個人的には1段目よりも2段目の方が怖さを感じた。

 

そして、2つのチムニーを越えたらあとはウィニングラン。山頂の老夫婦に見守られながら簡単な岩場をクリアして祠のすぐそばに登り上げた。

山頂へ

 

ついに槍ヶ岳へ登頂!

 

10:20 槍ヶ岳登頂

 

梯子を経由せず、祠の真横にいきなり出現するという北鎌尾根ならではの登頂を成し遂げ、全身に達成感が駆け巡る!

山頂はすっかりガスっていて登っている人の数は少なかったが、見守ってくれていた老夫婦から北鎌尾根クリアを祝福してもらえたのだった。

 

展望は開けないし、この日は天気が悪くなっていく一方のようなので、長居には意味がなさそうだ。しばらく休んだ後に下山に移った。

登山道を下山

 

鎖も梯子もよく整備された一般登山道のありがたみを噛み締めるとともに、守られた道をあえて選ばず己の身一つで自然へ挑むバリエーションの楽しさを改めて実感した帰路となった。

槍沢を下りていく

やや機嫌を戻した大槍

槍沢から上高地までの道のりは呆れるほど長いが、山行の余韻に浸りながら黙々と歩いて無事上高地へ帰還。

 

15:30 下山完了

小梨平キャンプ場そばにある小梨の湯で汚れを洗い落とし、すっきりとした気分で帰還した。

小梨の湯

 

振り返り

振り返ってみればルート研究が大変に功を奏した山行だった。天上沢から北鎌沢を詰めるアプローチ・独標の突破方法・稜線通しの原則を事前に調べ尽くしたおかげで、ルートロスによる道迷いは一度も発生しなかった。

そして、ハードな岩登りが続く中でも最後まで冷静な行動を続けられたのは普段からつけていた体力のおかげでもある。

また、懸垂下降装備はものすごく心の支えになった。実際には使わなかったわけだが、「進退窮まったら最悪懸垂で仕切り直せばいい」という選択肢があるだけで行動のしやすさはグッと上がった。登るのが簡単でも降りるのが難しいという岩場は非常に多く、そういう場所での撤退可能性をまるごと保証してくれることのなんとありがたいことか。

 

総じて、積み重ねた事前準備も全て役に立ち、登山者としての成長を実感することができた3日間だった。北鎌尾根をクリアしたことにより、その他のバリエーションルートにも道が開けたかのような気分だ。

今後もチャレンジングな山行としてバリエーションに挑んでいきたい!

槍ヶ岳・北鎌尾根ソロ踏破 前編:上高地~北鎌のコル

はじめに

9/21(土)から9/23(月)にかけての3日間、槍ヶ岳へのバリエーションルートとして知られる北鎌尾根へ挑戦してきた。

 

稜線は激しい登下降が続き、ルート見極めも難しい、まさにバリエーションらしい難しさに正面からぶつかる行程となった。その一方で、北鎌尾根から望む槍ヶ岳は他のどの角度から見たそれよりも美しく、この尾根に踏み込んだからこその唯一無二の眺めを得ることができた。

 

そんな挑戦と達成の登山の様子をお届けする。

 

 

事前準備

北鎌尾根とは槍ヶ岳の北方に伸びる尾根。東鎌尾根と西鎌尾根には一般登山道が整備されているのとは対照的に、登山道が整備されていない完全なバリエーションルートとして有名だ。

尾根の位置関係

北鎌尾根は地形が険しく、また登山道から遠く離れた深奥に位置するため、通常の登山よりも多くのリスクが発生する。

  • 登山道が存在しない。適切なルートを自分で発見する必要がある。
  • 行程が長く険しいうえ、エスケープルートが存在しない。進行不能になった際に長い行程を撤退できる体力が必要。
  • 救助が難しい。進退窮まった際に自力で状況を脱出できなければならない。

ソロで挑戦するのであればなおさら、これらのリスクを適切に管理することが求められる。事前準備は入念に重ねた。

 

ルートファインディングに関しては、山行記録を徹底的に調べてルート研究を行い、難所の通過方法や各区間の注意点を洗い出した。ブログやYAMAP、ヤマレコなどで写真付きの詳細なルート情報が簡単に手に入るのは本当にありがたい時代だ。

 

行程の長さ険しさに関しては、日ごろ重ねている登山やランニングといった体力づくりが対策になった。また、普段よりも増える荷物への対策として、直前に歩荷トレーニングを行うことで重荷へ体を慣らした。

 

自力脱出に関しては、懸垂下降の能力と装備を身に着けて臨んだ。

懸垂下降講習を受け、指導者の下で信頼できる技術を学んだ後、自分でも家や実地での練習を繰り返して実用レベルに固めた。本番は30mロープとハーネス等のギアを持ち込み、核心部を歩く際は常時ハーネスを装着していつでも懸垂できる状態を整えた。

 

登山計画

北鎌尾根へのアプローチは上高地から入るパターンを採用した。東鎌尾根の最低点である水俣乗越を越え、天上沢を下りて北鎌沢出合から尾根へ取りつく。これが北鎌尾根へ向かう最短経路だ。*1

ルート図

決行日については、当初はシルバーウィーク初日の朝から上高地入りする予定としていた。

 

【当初の予定】

  • 9/18(金):夜行バスで上高地へ
  • 9/19(土):上高地から北鎌沢出合まで移動してテント泊
  • 9/20(日):北鎌尾根から槍ヶ岳へ登頂、どこかでテント泊
  • 9/21(月):下山

 

バスの予約も済ませて待ち構えていたところに、まさかの台風が到来。9/20(日)の夜から9/21(月)朝にかけて北アルプスへ最接近し、風雨が強まる予報となってしまった。

幸いなことに、シルバーウィークは有休を使って9連休としていたため、日程を後ろ倒ししても全く問題ない。速度が変化していく台風の動向も伺いつつ、最終的には9/21(月)の昼行便で上高地に入ることにしたのだった。

 

【実際の日程】

  • 9/21(月):高速バスで昼に上高地入り。ババ平キャンプ場でテント泊
  • 9/22(火):北鎌沢出合から北鎌のコルへ上がってテント泊
  • 9/23(水):北鎌尾根から槍ヶ岳へ登頂、下山

 

山行記録は長くなりそうなので、2回に分けてお届けする予定。本エントリでは前半(1日目・2日目)、次回のエントリで後半(3日目)の様子を写真とともに振り返る。

 

山行録

9/21(月):上高地~ババ平

高速バスさわやか信州号の昼行便で12時に上高地へ到着。普段は夜行便で上高地へ移動することが多いだけに、事前に十分に睡眠を確保できている昼行便の気楽さは好ましい。

上高地バスターミナルからは歩き慣れた梓川沿いの遊歩道をたどり、1日目の宿泊地であるババ平を目指した。

初日の上高地

バリエーションルートに踏み込まないアプローチ日とはいえ、移動距離は10kmを超えるので意外と骨のある行程。ババ平へ到着したのは16時を過ぎるころとなった。

ババ平でテント設営

この日の夜に台風が最接近する予報であり、空には雲が厚く垂れこめる。風もやや吹いており夜にかけての天候悪化は心配だったが、森林限界下ということもあり最終的には雨に降られず宿泊することができた。

 

お徳用バームクーヘン(バス移動の休憩中に諏訪湖サービスエリアで買ったやつ)を夕食にして明日に備えるのだった。バームクーヘン好きとはいえ粗食が過ぎたかもしれない。

 

9/22(火):ババ平~水俣乗越~北鎌沢出合~北鎌のコル

6:15 ババ平出発

初日にババ平まで進出できたおかげで、2日目・3日目ともに行動時間をぐっと抑えることができる。日が出てからの行動開始で十分に間に合いそうだ。5時に起床してゆっくりとエンジンをかけ、6:15にババ平を発った。

 

台風一過の好天に恵まれ、雲一つない快晴をバックに朝焼けに染まる東鎌尾根。今日はあれを越えた先へ踏み込んでいくのだ...

朝焼けの東鎌尾根を正面に

 

槍沢登山道の途上で分岐が出現し、右へ折れると水俣乗越へ向けた上りが始まる。この上りはエスケープルートとしての意味合いが強く、普段は通行者が少ない様子。

道の細さと傾斜の強さが相まって、さっそくバリエーションを歩いているような雰囲気を醸し始めていた。まだ一般登山道のはずなんだけどな。

分岐から水俣乗越を目指す

急登が続く

対岸の見晴らしが良い

急登にめげずに400mほど標高を上げると東鎌尾根の最低鞍部、水俣乗越へ到着した。

 

7:15 水俣乗越

水俣乗越

東鎌尾根沿いに槍ヶ岳へ向かう登山道。通常はここをたどる

普段であれば、ここ水俣乗越からは東鎌尾根沿いの登山道をたどることになる。西へ行けば槍ヶ岳、東へ行けば西岳だ。

だが今回は違う。水俣乗越をそのまま突っ切って登山道を外れ、北に伸びる天上沢を下降していくのだ。

 

北側の斜面を覗き込むと、直下は崩壊地となっておりびっくりするぐらいの急傾斜。立ち入り禁止を示すかのようなロープも張っており、一見して通れないようでもある。だがしかし、ここが北鎌尾根へ向けた最短経路だ。

いちど空身で下見をしたのち、ザックを背負い直して崩壊地へ踏み込んだ。他の登山者が水俣乗越で休憩中だったので、彼らからは謎の崖に入り込んでいくやべーやつだと思われたかもしれない。

水俣乗越から崩壊地へ

 

崩壊地は登り返せるか不安になるほどに傾斜が強いが、それはすぐに終わり、比較的傾斜のマシな沢に着地する。

やがて右へ伸びる踏み跡を発見。事前情報にあった踏み跡なので、信じて辿ることに。沢筋を左に見ながら低木の中をジグザグに下りていく。

かなりの激坂は続いたが、沢を真っすぐ下りるよりはずっと安全な道のりだった。

右に伸びる踏み跡

深奥の天上沢

しばらく下降を続けると、沢に合流して展望が開ける。

天上沢は両側を北鎌尾根と西岳ー大天井岳稜線に挟まれた深い谷の底にあり、異世界じみた雰囲気を纏っている。登山道を外れて文明から遠ざかった自分の精神ともシンクロするものがあった。

 

見上げれば槍ヶ岳の威容。そして北鎌独標の堂々たる佇まいも尾根の中でひときわ目立っていた。

槍ヶ岳

北鎌独標

次第に緩くなっていく傾斜の中、岩がごろつく天上沢を楽々下りていく。岩の一つ一つは安定しており歩きやすい。

間ノ沢との合流地点で水音が聞こえ始め、実際に流れが出現する。

 

さらに下りると一度伏流し、北鎌沢出合までは枯れ沢が続く。

 

どの地点が北鎌沢出合なのかは若干不安があったが、北鎌沢の水音で簡単に気づくことができた。

8:50 北鎌沢出合

北鎌沢出合

水量豊富な北鎌沢

北鎌沢出合はビバーク適地で、テント設営に適したスペースが両岸に数個ずつ整地されている。

テントが張れる

山行記録ではここで宿泊するパターンも多いが、今回は朝9時とまだまだ早い時刻なので、この日のうちに北鎌のコルまで詰めることに。北鎌尾根には水場がないため、沢を登る途中で翌日分も含めた水を積み込むこととした。

 

出合からは尾根へ向かって真っすぐ登り上げる沢筋が見通せる。これが北鎌沢の右俣で、今回辿るべきルート。沢が登り上げた先の鞍部が北鎌のコルだ。

北鎌沢右俣

北鎌沢には途中で左に分岐する左俣もあるが、こちらは間違えて入り込んでしまうと最終的に進退窮まる危険な沢として知られる。

分岐への注意力を研ぎ澄まして沢の遡行に入った。

北鎌沢を詰める

10分ほど登るとさっそく分岐が出現。GPSとも照合しながら、確実に右俣へ向けて歩みを進めた。右俣では一時的に水が枯れているが、しばらく登るとまた流れが現れるのでまだ取水を焦らなくても良い。

右俣・左俣分岐

いちど右俣に乗ったら、あとは沢筋を忠実にまっすぐ辿って北鎌のコルを目指す。見上げれば常に西北西に尾根の切れ目があり、青空が覗いていたので目指すべき方角は分かりやすかった。

コルへ向けて一直線

コル付近をヘリが何度かホバリングしていた。どうやらこの日北鎌尾根で遭難救助が行われていたらしい。自分も日程をずらさず台風前に強行していたら同じことになっていたかもしれない、改めて安全には気をつけねば。

尾根上を飛ぶヘリ

途中でボルダリング課題のような壁も現れる。ザックを背負っているのでボルダリングとは感覚が若干違うが、さして難しくはないので冷静に越えていく。

 

沢の傾斜は標高を上げるほどに強まっていき、やはり一般登山道ではなかなか見られないような激しさになった。体感では燧ヶ岳のナデッ窪ルートをもう一回り急にした感じ。

全身をフルに使って岩登りを続けていると、やがて沢を分ける岩尾根が見えた。事前情報によれば、これが見えれば北鎌のコルは近い。正解ルートを進んできたことの証拠だった。一安心。

岩尾根

岩尾根のあたり、標高2400mぐらいでも水はチョロチョロと出ており、結果論だが取水タイミングは最後の最後まで遅らせることもできたようだ。実際、そういう事前情報も知っていた。

水は出ていた

ただ、存在するか不確かな水場を頼りに行動するよりは、重い荷物を担ぎ上げる距離を増やした方がまだマシだ。流れが確かな標高2200m地点で5Lの水を積み込んだのだった。

普段のトレーニングの成果で特に重さも感じず、無事に北鎌のコルへ到着した。

 

11:10 北鎌のコル

北鎌のコルには、3人用のテントも楽々張れそうな平地が広がる。

北鎌のコル

ここで行動終了しても良かったが、コルは虫が多いらしいという事前情報、ここから進んだ先にもテントが張れるビバーク適地があるらしいこと、行動の早さからして先行者はおらず設営場所は選び放題だろうことからさらに進むことに。

 

コルから先は踏み跡がはっきりしており、進路に困ることはない。ただし相変わらず激坂は頻繁に出現する。樹林の中で高度感こそないが、終始まったく油断ならない道のりだった。

コルから続く踏み跡

やがてテントを張るのに適した場所を発見、2日目の行動を終了した。

ここをビバーク地とする

 

11:40 行動終了

ビバーク地にはエアライズ2をちょうどギリギリ設営することができた。

奥には大天井岳が望める素晴らしいロケーション。

テントと大天井岳

雲海に沈んでいく北鎌尾根。奥には燕岳

早くも正午前には行動終了したので、明日の道のりを確認しながらテント内でまったりと寝転がっていた。

電波も辛うじて通じたので、最新の天気予報を取得することに成功。明日は朝は晴れるが次第にガスが出てくる予報とのこと。北鎌尾根からの大槍を眺められたらいいのだが。

 

夕方には単独行の男性が先へ進んでいった。既に何度かここを歩いているそうで、身なりからしてもバリエーションに慣れている雰囲気があった。

 

明日通過する難所の一つである北鎌独標もちらりと姿を見せるのを眺めつつ、日が落ちるのを待って眠りにつくのだった。

北鎌独標がちらり

 

つづく

後半、北鎌尾根核心部へ続く。

trthff.hatenablog.com

 

 

*1:湯俣温泉から水俣川を遡行して南下するアプローチも存在するが、そちらはさらに行程が長くなる。

乾徳山で歩荷トレーニング

はじめに

秋雨前線が列島上で粘り続ける今日この頃。山もあいにくの天気が続く。

しかし、天気予報を眺め続けていると9/4(土)は悪くない。どうやら前線が南下しすぎたためなのか例外的な小康状態が訪れるようだった。

 

この機を逃さず、未踏なる山梨の名山、乾徳山へ登ってきたのでその様子をお届けする。歩荷トレーニングも兼ねての気楽な山行だったので、いつもより軽めの記録になるかも。

 

 

登山計画

乾徳山とは

乾徳山は奥秩父山塊に属する標高2031mの山。甲武信ヶ岳や国師岳などの奥秩父主脈よりも南、山梨県側に位置し、二百名山と山梨百名山に数えられている。

樹林・草原・岩場の三景が揃うことで有名な山。

登山道の多くは樹林帯を行くが、中腹に広がる平原である国師ヶ原では草原が、山頂付近では険しい岩場が現れる。

特に、山頂直下の鳳岩は高さ20mほどの岩壁を鎖を頼りに登る難所として知られる。

 

登山計画

最近は、近場の山へ日帰りする際は歩荷トレーニングを兼ねることが多くなっている。

普段は筋トレに使っている20kgウェイトジャケットをザックに詰めて担いでいく。こうすれば、ザック本体・水分・小物の重量と合わせておよそ25kgの歩荷になるというわけだ。

 

ルートについては乾徳山登山口から国師ヶ原へ登り上げ、岩場を正面突破する最もポピュラーなルートを採用。

下山には道満尾根を使うことも考えたが、下りでの足への負荷を抑えるため、結局同じルートでのピストンとした。

ルート図

塩山駅から乾徳山登山口へのバスが十分な本数運行しているため、登山口へのアクセスも公共交通でまったく問題ない。中央線沿いにある名山のありがたいところだ。

 

山行録

朝5時から電車を乗り継いで塩山駅へ。青空が垣間見えて悪くない天気。

気温も暑すぎず丁度良いので、トレーニングには最適なコンディションかもしれない。

塩山駅

8:30出発のバスに乗って乾徳山登山口まで移動した。乾徳山・甲武信ヶ岳へアクセスできる登山者御用達の路線なのだが、土曜朝にしては人数が少なめ。やはりここしばらく続く悪天候のせいだろうか。

 

徳和川が流れる起伏豊かな街並みを横目に見ながら出発した。

 

9:00 登山開始

本格的に登山道が始まるのは乾徳山登山口からで、それまでは徳和川沿いの林道を辿る。

 

道中に乾徳神社があるのでお参りも済ませていく。山頂に奥宮があったので、こちらは前宮なのだろう。山頂と山麓の分業体制は山岳信仰と結びついた神社あるある。

乾徳神社

傾斜の緩やかな林道をてきぱき歩いていくと、ほどなくして登山口が出現。

杉を主体とした樹林帯に分け入って本格的な上りが始まった。

登山口

杉林といっても林間は比較的広めで、天気が薄曇りなこともあって周囲は明るい。道は土が主体で幅広いため歩きやすく、歩荷にはありがたい道のりだ。

杉林をいく

広葉樹の割合が増えていくとともに斜面の傾斜も強くなっていくが、それに合わせて登山道も蛇行してくれるため、きつさはそれほど変わらない。

 

途中で一度休憩を挟みつつ登り続けていると、水場「錦晶水」が現れる。塩ビパイプからチョロチョロと水が出ており、手ですくって飲むには十分だがペットボトルを満たすには相当に時間がかかりそうだ。

錦晶水

チョロチョロ

錦晶水を過ぎてさらにしばらく登ると、にわかに地形が平坦になり、植生も草原へ変わる。ここが国師ヶ原のようだ。

晴れていれば北西には乾徳山山頂が見えるはずだが、あいにくのガスで全容は見えず。

国師ヶ原の草原。
晴れなら向こうに山頂が見えるはず

十字路。今回はまっすぐ行く

高原ヒュッテ
無人の避難小屋のようだ

 

国師ヶ原の十字路では迷わず北へ進む。岩場、鎖場が楽しみだ。

 

月見岩が岩場の始まりを告げる。このあたりで草原も途切れ、再び樹林の中へ分け入っていく。

月見岩

手洗い岩
その名の通り水が貯まっている

 

やや日当たりが悪く鬱蒼とした樹林の中、道に大きな岩が転がり始める。

やがて最初の鎖が出現。鳳岩とカミナリ岩以外は鎖がなくても登れる難易度ではあったが、まあ頼りにできる鎖があるに越したことはない。

第一の鎖

第二の鎖

髭剃岩

カミナリ岩は二段の急峻な岩壁だが、凹凸が多く足の置き場には困らない。二段目には鎖が二本平行に垂らされているが、右側の方が傾斜がゆるく登りやすかった。

カミナリ岩

岩壁一段目

二段目は右側を行く

カミナリ岩を越えていよいよ山頂直下。聳えたるは鳳岩。噂に違わぬ迫力だ。

鳳岩(おおとりいわ)

 

スタート付近が特に難しかった。足の置き場が少なく、どうしても鎖に体重をかけて腕ずくで登らなければならない場面が出る。重荷を背負っていることもありなかなかにスリルがあった。

最初の区間を越えてからは特に難しさはなく、無事に突破して登頂!

 

11:45 乾徳山登頂

山頂はガスで展望はなかったが、秋雨前線や台風が跋扈する中で気持ちの良い山行を全うできただけでも十分な収穫だ。トレーニングも積めたので一石二鳥。

乾徳山山頂

山頂の景色

休憩の後に下山へ移った。

下りでも正々堂々正面から鳳岩をクライムダウンした。見下ろした先が確かな地面なのでそれほど高度感はなく、ジャンダルムなどに比べればはるかに気楽。

下りも鳳岩を

13:30 下山完了

乾徳山登山口に到着したのは13:18のこと。帰りのバス便は13:38で、残されているのは20分。バス停までの距離は1.5km。

林道を走りつつ、近くの東屋で瞬時に着替えることでなんとかバスの時間に間に合った。慌ただしい終盤にはなったが、無駄な待ち時間なく清潔な服装で帰還するのだった。

 

おわりに

乾徳山は樹林も草原も岩場も楽しめて展望も良く、そのうえアクセスも良好な秀逸な山だった。山頂直下の鳳岩が山行に刺激的なアクセントを加えてくれるのも印象的。ぜひ晴れの日に登ることをおすすめしたい。

 

ジャンダルム・大キレット・表銀座 連続縦走3泊4日 ②北穂高岳~槍ヶ岳~西岳~燕岳~中房温泉

前編はこちら

trthff.hatenablog.com

 

はじめに

北アルプスの名ルート3本をテント泊で繋ぐ3泊4日縦走、後半の記録。

 

3日目は大キレットを踏破して槍ヶ岳へ登頂、4日目は表銀座ルートを縦走して燕岳を目指す。

行程図

 

 

山行録

3日目:大キレットを越え、槍ヶ岳へ会いに行く

前日はハードな西穂高岳~奥穂高岳岩稜踏破だったが、北穂高テント場で十分に眠れたおかげで残りの縦走をこなすための体力は復活。

 

3時に起床し、空が明るくなる直前の4時にテント場を出発した。いよいよ北穂高岳と南岳の間に伸びる切れ落ちた大稜線、大キレットへ挑戦するときだ。

早朝からさっそく今日の行程の核心部に挑むわけである。逆に、大キレットを突破して南岳に到達さえしてしまえば、そこから先に槍ヶ岳への登頂を阻む困難はない。

4:00 北穂高テント場出発

大キレットを越えて槍ヶ岳を目指す

難易度は西穂高岳~奥穂高岳に比べれば低いと言われているものの、ミスが命とりな険しい岩稜が続くことに変わりはない。前日の疲労も考慮して、気を引き締めて取り掛かろう。

 

出発してみると、この日の天気はガス多め。北穂高岳山頂からの下りでさっそく鎖場を伴う急下降が連続して出現するものの、視界がないので高度感がなく、恐怖が軽減されているのはむしろありがたいかも。

ガスの中で急下り

臆せず行こう

時折垣間見える涸沢カールははるか下にあり、稜線のダイナミックさの片鱗を感じさせる。

 

ライチョウ第一号も発見!幸先の良いスタートだ。

ライチョウ第一号

下りも落ち着いてきたタイミングで、大キレットの中でも屈指の難所だと言われる「飛騨泣き」が出現。飛騨側(写真の左側)に落ちたら助からないためこの名前だとか。

飛騨泣き

切り立った岩の側面に鎖が一本這わせてあり、足の置き場はかなり少なめ。途中にいくつか人工のステップが打ち込んであるため、それらを有効活用すべし。

教えられるまでもなく地名は分かる

稜線通しに鎖をたどった先では2m近い垂直段差が出現。鎖と途中のステップ一本を頼りに下る必要があり、姿勢の移し方や足の置き場に難儀した。

試行錯誤の後に一度座り込んで冷静になり、再チャレンジで突破。瞬間的な怖さではこの山行で一番だったかもしれない。

垂直段差を振り返って

飛騨泣きを越えた先もわずかに下りが続いた末、A沢のコルに到着。ここが北穂高岳と長谷川ピークを結ぶ鞍部だ。

長谷川ピーク

次なるピークである長谷川ピークに向けての上りも非常に険しく、ペイントに忠実に痩せた岩稜をたどる道のりが続いた。

険しい上り

 

長谷川ピーク

 

長谷川ピーク以降は目立った中間ピークはなく、ぐっと標高を下げて大キレットの最低鞍部に到達した後に一気に南岳に乗り上げる。

今思えば、序盤にクリアした北穂高岳から長谷川ピークにかけての下り→上りが大キレットで最も難しい区間だったらしい。長谷川ピークの先では恐怖を感じるような箇所はなく、相変わらず注意を要する稜線こそ続くものの難易度では一段下がったような感触があった。

 

最低鞍部からは厚く垂れこめる雲をくぐるように常念岳の優美な曲線が覗く。やはり常念岳は美しい!

最低鞍部と常念岳

 

最低鞍部からの上りは、落ちたらまずい断崖のような箇所は少なく、梯子や鎖を駆使して一気に標高を上げるダイナミックな区間が続いた。アスレチック的な楽しさがあり、岩稜ルートの最後で緊張感から解放されたのはありがたかった。

梯子で一気に

ダイナミックに登る

そしてついに大キレットをクリア、南岳小屋へ到着!

6:40 南岳小屋

南岳小屋

南岳小屋を境に景色は一変。大キレットの険しさが夢だったかのように稜線は広く平坦になり、滑落の危険とは縁がない安全な世界に。緊張は緩み、気楽に縦走を楽しめる雰囲気が戻ってきた。

 

小屋から緩やかな上りを経て南岳へ登頂。

南岳

植物にも優しい環境ということで、さっそくチングルマやイワギキョウも。

チングルマ

イワギキョウ

中岳を経て大喰岳へ

ライチョウのつがいにも遭遇。雄が砂浴びしているようで、盛んに翼を振りながら道を掘り返していた。

ライチョウ夫婦

 

槍ヶ岳に近づくにつれてガスが少しずつ引き始め、槍沢の雄大な広がりが視界に入る。

東鎌尾根と殺生ヒュッテ

槍ヶ岳は近い

稜線終盤の上りを経て、ようやく槍ヶ岳山荘へ到着した。

槍ヶ岳山荘

さっそく山荘へ荷物をデポ、ヘルメットを被って槍の穂先へ向かう。一度通ったことがある道のりなので慣れもあり、楽しい岩登りだ。

山頂アタック中、ちょうど槍ヶ岳山荘のスタッフが山頂直下の二連続梯子を補修していた。整備ありがとうございます。

槍の穂先へ

山頂直下の梯子

そして槍ヶ岳へ登頂!

9:10 槍ヶ岳登頂

真っ白背景

山頂ではあいにくガスで真っ白だったが、同じタイミングで登ってきた外国人の子どもが英語で楽しそうにはしゃいでいるのを聞いているとこちらも嬉しい気分になってきた。

この狭い山頂に梯子をよじ登って到達する体験は刺激的に違いない。子どものうちに経験できるならなおさら記憶に刻まれそう。

 

当面ガスが取れる気配がなかったので早めに穂先を下りたのだが、槍ヶ岳山荘で休憩していると穂先が姿を見せ始めた!

見えた穂先

大縦走のちょうど中間地点にある槍ヶ岳、きちんと山頂を拝めたのは幸いだった。これで未練なく次の稜線へ移れそうだ。

 

真夏でも大きな雪渓をたたえる大喰岳を振り返りながら、東鎌尾根をたどって槍ヶ岳を下っていった。

大喰岳

今日の宿泊地点である西岳までの道のりは、まず東鎌尾根を一気に下りて水俣乗越を通過、そこから300mほどの急登を経て西岳へ乗り上げるといった感じ。

 

東鎌尾根は梯子や階段が多数出現する急斜面であり、滑落には注意が必要。ここまでの疲れも加味して慎重に足を運んだ。

東鎌尾根を行く

ライチョウ第三号

 

そして正午を回ったころ、3日目のゴールである西岳へ到着するのだった。

12:10 西岳到着

ヒュッテ西岳

 

さっそく受付を経てテント設営へ向かう。

今回初めて利用した西岳のテント場だが、ここはロケーションが最高だ。

ヒュッテ西岳からやや離れた稜線上に、遮るものない平坦な砂礫が広がり、張る場所は選び放題。西には槍・穂高連峰、東には常念山脈が間近に望める位置にあるため、晴れたときには大展望が楽しめるに違いなかった。明日の天気予報は晴れ、朝の景色が今から楽しみだ。

展望の良い稜線にテントを設営

ヒュッテ西岳との位置関係

ヒュッテ西岳では昼ご飯をいただく。軽食メニュー5品の中から選べる。

腹も減っていたし値段も山小屋にしてはお手頃だったので、欲張って2品いただくことに。鮭茶漬けが900円、サバサンドが700円。どちらも疲労の中でも食が進むいいメニューだった。

鮭茶漬け

サバサンド

ガスっている中でも時折天頂から太陽が顔を出し、日中はテント内部が灼熱に。外の岩に座ってくつろいだ午後を過ごし、日の出の景色に期待を込めて宿泊するのだった。

 

4日目:表銀座縦走で充実の締めくくり

最終日の4日目は「表銀座」、すなわち槍ヶ岳と燕岳を結ぶ人気縦走路を通って燕岳を目指す。アップダウンは少なく危険な区間もないと聞くので、リラックスした気楽な稜線歩きで縦走を締めくくれそうだ。

 

下山までのコースタイムは短めなので、暗い早朝に行動する必要もない。3時半に起き出し、朝食をとりながら明るくなっていく空を眺めていた。

 

天気は昨日と打って変わり見事な晴れ、赤らむ地平線に常念岳のシルエットが浮かび上がる!

夜明け前の常念岳

そして、振り返ると槍・穂高連峰の全景がそこに!

この稜線をはるばる歩いてきたのかと思うと感慨深い。そして、大キレットがいかに深く切れ込んでいるかもよく分かる。

槍・穂高

マイテントと穂高岳で記念撮影。雲海もあいまって素晴らしい眺め。

 

しばらく見入っていると、常念岳の左からご来光が。

ご来光

燃え上がるような朝焼けに包まれる連峰。

 

西岳テント場を宿泊地に選んで本当に良かった。最高の景色に見送られてテントを撤収、ぼちぼち大天井岳へ向けて歩き始めた。

5:00 西岳出発

 

表銀座縦走路の前半は大天井岳へ向けた稜線歩き。

眼前に膨大なボリュームを持った大天井岳が立ちはだかり迫力満点。朝日が後光のごとく差してさらに威厳を増している。

大天井岳へ向かう稜線

大天井から南へ連なる常念山脈

見た目からもわかるようにそれほど高低差の大きい稜線ではないのだが、前々日・前日と難しい岩稜歩きを続けてきたことで疲労が溜まり気味。

心拍がいつもより上がりやすくなっており、スローペース気味に大天井ヒュッテまで登り詰めた。

大天井ヒュッテ

大天井岳山頂へ登るには山頂東側へ大回りしなければならず時間がかかる。今回は山頂をスルーして西側を巻くことに。その代わり、大天井ヒュッテから10分ほどで登れる牛首展望台へ寄っていった。

以前も一度寄った展望台だが、相変わらず槍・穂高が一望できる絶好のスポットだ。大天井岳の眺めもここがベストかもしれない。

牛首展望台

牛首展望台から望む大天井岳

大天井ヒュッテへ戻った後は、巻き道を通って大天井岳を左に抜ける。

山頂を左に巻く

そして、大天井岳を抜けた先に現れた稜線こそが表銀座の真骨頂だった。

表銀座後半戦

 

稜線はどこまでも穏やかに伸びて登山者を優しく導き、ハイマツが覆う山肌を縫うように露出する砂礫が新鮮なコントラストを見せている。

穏やかな稜線

 

砂礫のところどころにコマクサも咲いており、可憐な姿に癒される。前日までが試練の道のりだっただけに、雰囲気のまるで異なる平和な世界に放り込まれて不思議な気分。

疲労の蓄積した縦走終盤のため、アップダウンがほとんどないという稜線の特徴にも大いに助けられた。

コマクサ

燕岳へ近づくにつれ、その特徴である花崗岩が次第に出現し始める。

 

景色を楽しんでいるとあっという間に燕山荘へ到着。予約がなかなか取れないと聞く大人気の山小屋だ。今回はコーラを買わせてもらって糖分補給した。

燕山荘

下山路である合戦尾根は燕山荘が始点になっているため、荷物はここにデポできる。燕岳までは空身でピストンできるわけだ。

低下していたペースも身軽になったことで復活。スキップでもするような気分で燕岳へ向かった。

いざ燕岳へ

コマクサ群落

稜線から眺めた燕岳は花崗岩と砂礫とハイマツが入り混じり、南アルプスの鳳凰山を思い出すような美しい山容だった。

燕岳

ただし、鳳凰山が静的な日本庭園を想起させる一方で、燕岳はもうすこし動きを感じさせる。花崗岩、砂礫、ハイマツ、すべての輪郭が右上から左下に流れていくような形で統一感を持っていることがそう感じる一因かもしれない。

 

山頂に近づくほどに白さを増していく道を歩み、燕岳へついに登頂!

これをもって縦走の全目標ピークを踏破したのだった。

9:20 燕岳登頂

増していく白さ

燕岳登頂
先には北燕岳

 

燕山荘へ帰還してからはデポした荷物を再び背負い、下山へ移った。

下山に使う合戦尾根は北アルプス三大急登の一つ、らしいのだが、それほど急勾配な印象は受けなかった。そもそも下りで使ったのもあるし、砂礫メインでよく整備された道が非常に歩きやすく勾配の割に楽だったというのもあるだろう。

らくらく合戦尾根

中間地点の合戦小屋で名物のスイカをいただいて休憩を挟み、無事に中房温泉へ下山した。登山中に食べるみずみずしいスイカのうまいことうまいこと。染み渡る。

合戦小屋でスイカ

中房温泉へ下山
11:20 下山完了

中房温泉では登山口すぐ近くに日帰り温泉があり、登山者へ至れり尽くせりの環境。4日間の汚れを落とし、きれいさっぱりで帰宅するのだった。

日帰り温泉

 

ちなみに、今回下山に使った中房温泉だが、下山から4日後に県道中房線で土砂崩れが発生。橋が流出し、車でのアクセスが断たれてしまったそうだ。

燕岳への登山口として重要なだけに早期の復旧を祈りたいところだ。

news.yahoo.co.jp

 

おわりに

三者三様の魅力を持つ北アルプス屈指の名ルートを連続で味わった贅沢な縦走だった!前半は特に険しい岩稜が続いたが、集中力を切らさず、体力も温存できたことで無事に最後まで歩きぬき、変化に富む道のりを楽しめた。

ジャンダルム・大キレット・表銀座 連続縦走3泊4日 ①上高地~西穂高岳~奥穂高岳~北穂高岳

はじめに

8/1(土)から8/4(火)にかけて、北アルプスの名ルート3本をテント泊で繋ぐ縦走に挑戦してきた。

今回繋いだルートは以下の3つ。

  1. 西穂高岳~奥穂高岳の岩稜ルート「ジャンダルム」
  2. 穂高岳と槍ヶ岳を結ぶ切れ落ちた稜線「大キレット」
  3. 槍ヶ岳~燕岳の大人気縦走路「表銀座」

縦走路

ジャンダルム・大キレットという国内登山道でも最高峰の険しさを誇るルートを踏破しつつ、稜線を進むほどに多様な姿を見せる槍・穂高連峰を満喫した贅沢な山行となった。

 

本エントリはそんな大縦走の前編、1日目と2日目の様子をお届けする。

 

 

登山計画

ジャンダルム・大キレット・表銀座を繋ぐにあたり、最も難しいのはジャンダルム区間だ。

西穂高岳から奥穂高岳にかけて痩せた険しい岩稜が続き、垂直に近い登下降や浮石・落石に注意し続ける必要がある。それでいてコースタイムも10時間に及ぶ長丁場だ。前日は早めに行動を終えて宿泊し、早朝から西穂高岳に入った方が良いだろう。

 

ジャンダルムを突破することができれば、あとは大キレットと表銀座にそれぞれ1日ずつかけることで日程がピッタリ収まる。美しい計画の完成だ。

 

【1日目】夜行バスで早朝に上高地へ到着。西穂山荘まで上がって宿泊する。時間はかなり余るが、翌日のジャンダルム挑戦へ備える。

【2日目】ジャンダルムを踏破して西穂高岳から奥穂高岳へ。北穂高岳のテント場まで移動して宿泊。

【3日目】大キレットを通過して槍ヶ岳へ。東鎌尾根を下りて西岳のテント場で宿泊。

【4日目】表銀座を縦走して燕岳へ。合戦尾根から中房温泉へ下山。

 

さあ張り切っていこう。

 

山行録

1日目:西穂山荘で英気を養う

前日夜に高速バスさわやか信州号に乗り、朝5時に上高地へ到着。

さわやか信州号は今回も相変わらずの予約争奪戦ぶりで、予約開始から10分経った頃には既にグリーンカーの席が埋まっていた。幸い私は開始前からPCの前でスタンバイしていたため、無事席の確保に成功。

やはり睡眠時間を利用して現地に移動できるのは何物にも代えがたい価値がある。

 

上高地

初日は上高地から西穂山荘まで800mほど登るだけの行程なので急ぐ必要はない。むしろ時間が余って仕方がないので、道中をゆっくり楽しんでいくことにしよう。上高地は涼しく、半袖で散歩するのに最高に丁度良い気候だ。


朝日に照らされた上高地の景色を堪能する。

ここから見上げる奥穂高岳・前穂高岳はいつ見ても見事だ。梓川と湿地に彩られた風光明媚な山麓とはまるで対照的な険しい岩稜が天高く立ち上がる。

穂高の威容

西穂高岳から奥穂高岳へかけてのいっそう切り立った稜線も視界に入ってくる。明日はここへ挑むと思うとワクワクするな。

西穂~奥穂~前穂~明神

明神岳と朝日

川沿いを西へ辿り、田代橋を渡って対岸へ。

ゲートをくぐると西穂高岳登山道が始まる。

 

この登山道は登り一辺倒で傾斜は強めだが、樹林帯を貫く道は終始よく整備されていて登りやすく、辛さは感じない。

樹林帯を行く

水場(宝水) チョロチョロと出ている

6時に登り始めて西穂山荘に到着したのは7時半。急いでいるつもりはなかったが、多くの人がまだ寝ているような朝に今日の行程が終了するのだった。

西穂山荘

西穂山荘の正面と少し奥に行ったヘリポートにはそれぞれテント場がある。さっそく正面のスペースにテントを設営した。

今回もよろしく、エアライズ2

この西穂山荘、新穂高温泉側からロープウェイで手軽にアクセスできる立地から人気が高く、今日が土曜日であることも合わせて小屋・テント場ともに午前中から混雑が始まっていた。

13時を回るころにはテント場は空きがないほど埋め尽くされ、もはや1張も追加できないような有様。早めに行動終了するプランは正解だったようだ。

西穂山荘テント場、13時でこの有様

ガスが立ち込め、稜線の景色はあいにく拝めず。代わりとばかりに西穂らーめんを味わい、テントでゆる~く寝っ転がりながら明日の戦いへ備えるのだった。

西穂らーめん(味噌)

 

2日目:西穂~奥穂ルートへ挑戦

3:40 西穂山荘出発

前日はたっぷり睡眠できたこともあり、2時半には起床してテントをすぐに撤収、3時半には行動を開始した。

暗いうちに比較的安全な西穂高岳山頂までの道のりをクリアし、明るくなってきたタイミングでその先の岩稜地帯に挑む戦略だ。行く先の西穂独標には私よりも先に出発した人々の光列が連なり、同じ目標へ挑む者同士で奇妙な一体感を覚える。

西穂独標へ連なる光列

振り返ると月光にうっすらと照らされた雲海が。今日はガスもなくすこぶる天気が良さそう、絶好のコンディションでジャンダルムへ向かえそうだ!

焼岳も雲海から顔を出す

道中で森林限界を抜け登山道も土が岩に変わり始めるものの、稜線は相変わらず広く険しさはない。すぐに西穂独標を通過した。

4:30 西穂独標

西穂独標

次第に地平線が赤らみ、日の出の気配が近寄ってくる中を西穂高岳へ向かう。独標から先は険しさが一段階増し、この先の厳しさを予感させるような準備運動となった。

行く先にはさっそく奥穂高岳と前穂高岳、それらを結ぶ吊尾根が空に輪郭を描いている。奥穂高岳よ今行くぞ。

吊尾根

見下ろすと、ここまで辿ってきた尾根の先に焼岳・霞沢岳・乗鞍岳が。この角度からの眺めは新鮮だ。

上高地の山々

8峰
ピークごとに番号が振られる

ピラミッドピーク

険しさが増してきた

2峰を超えて
5:10 西穂高岳

それぞれのピークに名前の付いたアップダウンを抜け、ちょうど日の出を迎える頃合いに西穂高岳へ登頂した。

西穂高岳登頂
向こうには笠ヶ岳

西穂高岳登頂のタイミングで迎えた日の出。朝日は見事に吊尾根の間を昇り、奥穂高岳・前穂高岳を神々しく照らし出した。その裏には槍ヶ岳へ連なる稜線も姿を見せ、序盤にして槍・穂高連峰の全容を捉えることができた。

そして、行く先の稜線は見るからに断崖絶壁。ここを行くのか、気合が入ってきた...!

吊尾根に昇る朝日

左奥には槍ヶ岳

朝を迎えてヘッドライトは不要になったので収納。ここからはミスが許されない区間が続く。問題が起きたとしてもエスケープは基本的になく、選択肢は奥穂高岳へ抜け切るか、引き返すかだ。集中力を最大限に引き上げて山頂標識の先へ踏み込んだ。

矢印の先へ

 

最初に出迎えてくれたのはガレた岩場の急下り。

急下り

西穂~奥穂稜線に共通して言えることだが、全体的に岩が逆層気味で、しかも表面が滑らかなので滑りやすい。朝露による濡れも合わさり、面接触でグリップするのはかなり怖い状況だった。

代わりに段差や亀裂を積極的に利用し、登山靴を引っ掛けながら慎重に下っていく。浮き石が多いため、今から体重を掛けようとしている石が本当に安定しているのか、丁寧な見極めも不可欠だ。

 

下りを終え、緊張感で心拍数も上がっているが道のりは始まったばかり。集中を切らさずいくべし。

 

鎖場も早速現れる。スタンスの乏しい岩を鎖頼りで抜けた後に垂直に近い下降。


これ単独なら他の登山道でも出現しうるかもしれないが、西穂~奥穂の凄まじいのはこれが平常運転で、最初から最後に至るまで何度も襲い来るということ。これを確実にクリアし続けるためには、集中を維持する精神力とそれを支える体力が最も重要そうだ。

行く先の稜線も強烈

この世のものとは思えないような険しい稜線のアップダウンを一つ一つ超えるたび、最奥に聳える奥穂高岳が近づいてくる。緊張感半分、景色の美しさ半分で圧倒されっぱなしだ。

 

穏やかな笠ヶ岳の眺めは癒し

 

ピーク付近では例外的に稜線が広くなり、気が休まるタイミングもあるのは救いだ。

休憩区間、なお登り
6:10 間ノ岳

稜線のおよそ3分の1を進んだところで、中間ピークの間ノ岳へ到着した。まだまだ一日は始まったばかり、時間が不足するようなことはなさそうだ。

間ノ岳。山頂標識はなく、わずかなペイントのみ

間ノ岳から行く先を見やる

槍ヶ岳

ほっと一息ついて上高地を見下ろす。霞沢岳はやはり目を引く。新島々から徳本峠クラシックルート経由で登ってみたいものだが、あいにくクラシックルートは崩壊中。行くとしたら上高地からの往復になるだろう。

霞沢岳

休憩を済ませて再出発すると、相変わらず険しさを極めた道のりは続く。

赤丸に人がいるのがお分かりだろうか
あそこまで登る

辛うじてビバークできそうな鞍部を抜けた後、逆層スラブと呼ばれる有名な危険箇所が現れる。急斜面は板状の岩で構成されていてホールドが少なく、岩表面もツルツルでグリップが効きづらい。

辛うじて鎖が一本あるので体重の一部を預けることはできるが、途中でオーバーハング気味の箇所もあって乗り越えるのには力を要した。

逆層スラブ

上りでも若干怖さがあっただけに、これを下りで踏破するのは骨が折れそうだ。

逆層スラブを振り返る
下る方が大変そう

逆層スラブの先にもアップダウンはまだまだ続く。

正念場を乗り越えるために興奮気味のメンタリティなので、疲れるというよりはさあ次の岩場よ来い!といった気分。

何度目か分からない「ここを登るのか」

ビバークできそうなピーク

幾多の登下降を乗り越えて稜線も終盤にさしかかると、ついに西穂~奥穂間最大のランドマークであるジャンダルムが現れた!

左の丸みを帯びたピークがジャンダルム

 

実はジャンダルムは縦走路上にはなく、登頂せずに巻いて奥穂高岳へ直行することもできてしまう。しかし、ここまでの難路を踏破してきた身、記念としてあんな目立つピークに登らない選択肢はない。

ジャンダルムへの分岐は細いトラバースで怖さはあったが、迷いなく進んでいった。

ジャンダルムへ

ジャンダルム頂上へ向けた上りも急斜面ではあったが危険なほどではなく、つつがなく登頂!

8:15 ジャンダルム

ジャンダルム登頂

今まであらゆる角度から眺めてきた奥穂高岳だが、このジャンダルムの頂上から間近に見やる奥穂高岳こそが最も神々しく、最も格好良い姿だと確信した。何物をも寄せ付けない王者の風格がそこにはあった。

 

ジャンダルムの先へ進むともう一つの岩峰、ロバの耳が現れる。

ロバの耳

 

振り返ってロバの耳とジャンダルムが並んだ姿は、岩稜に彩られた峻険なこの縦走路を象徴している眺めだった。

ロバの耳&ジャンダルム

ルートはこう

 

ロバの耳の先ではついにルート最後の難所、馬の背が出現。両側が切れ落ちた細い岩を、乏しいスタンスを頼りに抜ける危険箇所だ。

馬の背

尖った岩の直上を真っすぐ抜ける

 

上りでは三点支持と重心に気を付ければ特に問題はなかったが、通過後に振り返ると怖さが増していた。

上りよりも下りが要注意なのは西穂~奥穂全体に言えることかもしれない。初挑戦を西穂から奥穂への上りにしたのは正解だった。

 

 

9:20 奥穂高岳

馬の背を突破したことで、ついに幾多連なった峻険な岩稜を全て制覇!奥穂高岳へ登頂した。

かつて一度到達した山頂ではあるが、ジャンダルムを抜けて拝む山頂の達成感は前回とは比べ物にならなかった。より困難なルートで山に登ることの意義がここにある!

 

踏破直前まできれいに見えていた奥穂高岳山頂だったが、登頂直後、私の緊張の糸が切れたのと呼応するかのようにガスり始めた。

振り返ったジャンダルムやロバの耳も既に目に焼き付いているし、ここまでに見たい景色を全て見ることができていたのは幸いだった。特に山頂に固執することもなく縦走へ移った。

 

どうやってこんな場所に建てたのか毎回疑問になる穂高岳山荘へと下りる。

穂高岳山荘へ

コーラ休憩
染み渡る

 

穂高岳山荘にもテント場があるため、ここで行動を終了して宿泊することも可能。

ただ、体力的には余裕があり、時刻もまだ10時前。まだまだ行動はできそうだったので、当初の計画通り北穂高岳のテント場を目指すことにした。

 

奥穂高岳から穂高岳山荘を挟んだ対岸には中間ピークの涸沢岳、その先に北穂高岳が控えている。涸沢岳~北穂高岳間の稜線は西穂~奥穂に負けないほどに切り立っていて急激な登下降が多く、全くもって油断ならない。

涸沢岳

涸沢岳から奥穂を振り返る

急峻な稜線

特に奥壁バンドはたちが悪い。断崖絶壁のトラバースで、瞬間的には逆層スラブや馬の背などよりも肝を冷やした。

奥壁バンドのトラバース

 

垣間見える稜線が最高に美しい

ペイントに忠実に従って
11:40 北穂高テント場

数多の難所を越えて11:40、ようやく今日の宿泊地である北穂テント場に到着するのだった。生きてるぞー!

北穂テント場

 

北穂高岳テント場は、涸沢から北穂高岳へ向けた尾根道の途中に位置する。階段状の広い岩場にところどころ整地された箇所があり、それぞれに番号が振られている。

事前登録の必要はなく、好きな場所に設営してから北穂高小屋へ向かえばOKだ。テント場と北穂高小屋の間にはかなり距離があり、何往復もするのは大変。一度の往復でできるだけ多くの用事を済ませるのが吉だろう。

ようやく休める

北穂高小屋

 

昼食には北穂高小屋のダモンカレーをいただく。その名の通りカルダモンなどスパイスが効いていて美味しい。

ダモンカレー

北穂高小屋で用事を済ませた後は自分のテントに戻り、kindleを読みつつゆったりと休んで明日の大キレットへ備えるのだった。今回の旅のお供はアンディ・ウィアー『火星の人』。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』があまりにも面白かったのでその流れで。

 

 

改めて今日の行程を振り返ると、稜線上では意識の半分程度を常に緊張感が占めていて景色を完全に楽しみきる余裕がなかったが、その困難も含めてたまらなく刺激的で楽しい道のりだった!そして、体力的には明日の大キレットにも問題なく挑める余裕を残せたのは成功だった。

 

山行で最も危険な核心は越えたが、まだまだ距離は長い。大キレット・表銀座もこの勢いのまま楽しむぞ~。

 

つづく

後編へ続く。

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日本百名山制覇を数字で振り返る

はじめに

2022年8月の富士山から始まり、2026年7月に訪れた羅臼岳をもって制覇した日本百名山。その過程をいろいろな数字で振り返っていく。

一人の人間が百座の山に登る過程のデータというだけでも面白いし、これから百名山を目指すという人にもきっと参考になるはずだ。

 

データを見ていく上での前提として、私の登山における方針はこんな感じ。

  • 東京在住で、マイカーを持たず公共交通メイン。必要な時だけレンタカーとタクシーを利用。
  • 全てソロ山行で百名山を登り切った。
  • 宿泊は基本テント泊、テント場がないときは小屋泊。

 

それでは振り返っていこう。

 

 

総日数・総山行回数

移動日も含め、百名山に登るために費やした総日数は135日。

多くの山は日帰り可能だし、縦走する場合でも1日1座は踏んでいけることが多いのでこういう数字に収束するようだ。

ただし、夜行バスや前日夜のレンタカー車中泊の分はこの総日数には含めていない。それも含めるともう少し膨らむはず。

 

そして、総山行回数(=登山の準備を済ませて家を出た回数)は74回。特に日本アルプスの山々については稜線上に連なっていて縦走で繋げていけることが多く、山行回数は少なめに収まった。北海道に至っては一週間レンタカーの旅で一気に5座登頂してしまったため、合計4回の遠征で制覇に成功している。

 

年ごとの登頂ペース

2022年以来、1年ごとの登頂数を表にまとめるとこんな感じ。

年 登頂数
2022 5
2023 18
2024 33
2025 37
2026 7

 

初年は登山始めたてということもあり少なめ。2年目から登山にすっかりはまり、頻度が劇的に増加。百名山が終盤に達する2025年まで年間登頂数は増え続けた。

大詰めの2026年は一気に減少。百名山以外の登山や次を見据えたバリエーションルート講習、本気度が上がり始めたマラソンなどにも時間を割いた結果、7月にようやく制覇といった傾向になっている。

 

日帰り・小屋泊・テント泊の割合

各座をどのようなスタイルで登ったかの内訳はこんな感じ。

スタイル 登頂数
日帰り 60
小屋泊 14
テント泊 26

※登山口近くの野営場で前泊/後泊した場合もテント泊に含む

 

この表からしても、ほとんどの山は日帰りで登れるものだと分かる。

小屋泊の回数が比較的少ないのはテント泊を優先する私の方針によるものだが、それでもテント場がない山域では必然的に小屋の世話になった。御嶽山頂の二ノ池ヒュッテや冬の霧ヶ峰で泊まったヒュッテみさやま、屋久島の避難小屋などが特に印象的だった。

 

新幹線・高速バス・レンタカー・タクシー・飛行機の利用回数

マイカーなしで百名山を登るには公共交通機関のフル活用は必要不可欠。それに加え、登山口へのアプローチが乏しい奥山にはレンタカーやタクシーが必須なことも多かった。それら交通手段をのべ何回使ったか数えてみる。

 

交通手段 利用回数
新幹線 48
高速バス 39
レンタカー 16
タクシー 11
飛行機 16

※往復で利用した場合は2カウント(レンタカーを除く)、山行で複数種類の交通機関を使った場合はそれぞれカウント

 

改めて振り返ると、東北新幹線・上越新幹線・北陸新幹線の利用回数が飛び抜けている。それだけ名山が東北・北陸・中部に多いことの証左だろう。

また、宿泊と移動を同時に兼ねられる夜行バスを頻繁に利用したことから、高速バスが次点になった。上高地や室堂など北アルプスの登山拠点への移動は高速バスが最も便利であるということも大きい。

集計前は、最初からマイカーを買っていた方が燃料代・維持費込みでも安くついていたよな...と思っていたのだが、こうして出た数字から概算してみると意外とどっこいどっこいだ。ノーマイカー百名山はアリなのかもしれない。

 

1日の最長行動時間

登山計画を立てるにあたって、コースタイムが15時間を超えるような行程はなるべく避け、安全をとって中間に宿泊地を設定している。その結果、1日あたりの行動時間はたいてい10時間以内に収まった。

とはいえ、10時間を超える山行もいつかは生じる。その中でも最長だったのは妙高山・火打山日帰り縦走の11時間5分だ。

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妙高高原駅からバスなどを使わず全て徒歩で妙高山まで登頂。その日のうちに火打山まで踏み、翌日が悪天候ということでテントを撤収してそのまま下山という選択が積み重なった結果、1日に全ての行程を詰め込んだ長丁場となった。

 

ちなみに、2位は大峯奥駈道3泊4日縦走最終日の10時間28分。ロングトレイルを歩き続けたラストスパートということもあり、しんどさではこちらが上回った。

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3位は南アルプス南部縦走2日目、上河内岳・聖岳を越えて百間洞山の家で宿泊した際の10時間1分。アルプスの縦走時はテント場の配置を考慮して特に慎重な計画を立てるため短めの行動になりやすいが、この日は特殊だった。南アルプス南部は1座1座が独立峰のように際立ち、小屋の間隔もそれに伴って広くなりがち。

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こうして振り返ってみると、自分の体力レベル的にはもっと1日の行動距離を長くしてもいいのかもしれない。まあでも、ヘロヘロになるよりは景色を楽しむ余裕を持っていたい。

 

1日の最大獲得標高

こちらもなんと妙高山・火打山日帰り縦走の2843m。

獲得標高2500mを越えてきた火打山アタックの終盤でもなぜか疲れを感じず、ただただ道のりを楽しんでいた記憶がある。悪路の急登などがなく、変に体力や筋力を消費せずにいけたことが良かったのかもしれない。

 

獲得標高2位は南アルプス南部縦走2日目の2623m。

 

ちなみに、百名山に限定しないなら、秦野駅からスタートして大山と塔ノ岳を一度に周回した狂気の山行が最大である。このときの獲得標高は2989m。行動時間8時間30分でこれをこなしているからなおさら異常さが際立っている。

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日本百名山を終えて

最初に登るべき百座をこれ以上ないほどにシンプルな形で指し示す日本百名山という存在は、右も左も分からなかった登山初心者時代の私を迷いなく導いてくれた。

むろん、過程をただのカウントにするわけにはいかない。稜線が美しい山はできるだけ縦走を、宿泊が楽しい山は宿泊を。一座一座の個性を味わい、楽しみ尽くすように登り、その記録もこうしてブログに残してきた。

そんな道のりの中で自然と、百名山に限らず興味の湧く山、歩きたいルートが数え切れないほどに湧き出してくる。雪山にも挑戦したいと思ったし実際に始めた。バリエーションルートにも足を踏み入れ始めている。いつしか、百名山というガイドに頼らずとも自分自身の意思と興味で道を拓く登山者になっていた。

 

百名山が持つ特殊な事情から、登山者の中にはこれを快く思わない人もいるだろう。深田久弥という一人の登山家が独断で決めたリストであること、百名山ブームによって観光地化が加速し、他方で選外になった山は顧みられない傾向にあること。そういった側面も認めつつ、それでも私は、自分自身が毎週登山に出掛けるほどにのめり込み、登山者として成長するためのきっかけでいてくれた百名山を、そしてそれを選んだ深田久弥を尊敬する。

 

そして、第一の目標である百名山を達成した今、気分としては人生のフェーズ1が終わり、区切りがついてフェーズ2が始まったかのような気分だ。山に対する情熱は尽きることはなく、むしろ燃え上がってすらいる。ここからは完全に己の意思で道を決めるのだ。

ジャンダルム・大キレットなど一般登山道でも未踏だった難ルートへ行きたい。取りこぼしている幾多の目を引く山々、霞沢岳や燕岳や赤牛岳や農鳥岳や蝙蝠岳やその他もろもろに登りたい。北鎌尾根や長次郎谷などバリエーションルートもやりたい。(相方が必要そうだが)クライミングもやってみたい。そして、海外登山も行きたい!まずは目指せキリマンジャロか。

 

これからも活動の様子をブログでお届けしていくので、これからもよろしくお願いします。