2日目
はじめに
本エントリは黒部源流域縦走の3日目、8/12(月)の記録である。
太郎平から南へ進出、黒部五郎岳と三俣蓮華岳を越えて三俣山荘を目指す!
3日目:黒部五郎岳を歩く
安定する天気
太郎平キャンプ場で3時半に起床。今日の行程はちょっと長めなので、てきぱきとテントを取り込んで4:50に出発した。
前日夜には雲が立ち込めていたようだが、早朝になるとさっぱり吹き払われ、天気は見事な晴れであった。
初日からここまでずっと、夕方に曇ることこそあれど、早朝から昼にかけては安定して雲のない晴れが続いている。1日の行動時間を短めに設定した登山計画が大気の状態とうまく噛み合ったようだ!
この日の天気予報も晴れのち曇り。早めに行動して遮るものない黒部五郎山頂へ立とうじゃないか。
ここは天国?黒部五郎稜線歩き
太郎平から黒部五郎岳へ向けては長い稜線が伸びている。
そのスケールの大きさも特徴であり、同時に展望が開ける中を徐々に上っていく高山ハイキングとしての楽しさも特筆に値する。
特に、最初のピーク北ノ俣岳へ向かう道はさながら天空の楽園だった。雲海に浮かび上がる稜線には木道が架けられ、足元を見下ろせば豊かに茂るハイマツにチングルマ。視線を上げれば、朝焼けから真昼の日差しへ移り変わる中でその輪郭を浮かび上がらせる名峰たち。
この稜線歩きだけでも、黒部源流域へ来る価値はある。折立からの登りは必要になってしまうが、それでもぜひ一度は来てほしい。
表情を変える黒部五郎岳
標高にして300mほどの急登をクリアすると黒部五郎の肩に到着。山頂へ向けてはさらに10分ほどの登りを要するので、リュックを置いて軽装で向かった。
そして8時半を回るころ、黒部五郎岳に登頂!
山頂に至るまでの稜線、西側から見た黒部五郎岳の印象は「のっそりしているなあ」といった感じだった。なぜなら、そちらからは起伏の少なく穏やかな尾根しか見えていなかったからだ。
しかし山頂、ここに来て山の東面を見下ろした瞬間にその印象は一変した。
山全体を一気に抉り取ったかのような巨大なカールがあったのだ。カール内部を流れる沢と広がる草原、散在する岩々は閉じた一つの世界を構成し、山頂から東へ向けて伸びる二本の尾根はその世界を守るかのように見事なU字形をなしていた。
黒部五郎岳は世界を一つ抱えていたのだ。こんな山がほかにあろうか。稜線歩きも含めてこの山のことが大好きになったし、翌日以降も鷲羽岳などから黒部五郎岳が見えるたびに豊かな山容に見入っていた。
なお、山頂からは相変わらず鷲羽岳・水晶岳といった山々がすっきり見通せる。黒部五郎岳もこの辺の名峰の例に漏れず大展望を誇っていた。
ちなみに、黒部五郎岳という名前はいかにも人名由来っぽいが実は違う。
岩がごろつく沢をかつてはゴウラ沢ないしはゴーロ沢と呼んでいた。ゴーロ沢を持つ山なのでゴーロ岳、漢字をあてて五郎岳。他の五郎岳(野口五郎岳が存在する)と区別するために地域名を頭につけて黒部五郎岳となった。
さて、山頂ビューを一通り楽しみ終わったので今度は東面へ下りていく番だ。山頂からダイレクトに稜線をたどって下りるルートもあるにはあるが、基本的に残雪期に通るためのバリエーションルートらしい。今回はカールの内部へ下りて稜線をトラバースするコースを取った。
カールの中からの景色もこれまた絶景であった。下りてきた黒部五郎岳を見上げるのもまたよし、広がる庭園を間近で眺めるもよしのパーフェクトなロケーションだ。
稜線歩き・山頂の展望・山容・カールに広がる庭園といろいろな要素に触れてきたが、これらすべてを内包しているというのだから黒部五郎岳はすごい山だ。
カールから東へ下りていくと庭園探索は終わりを迎え、次第に森へ分け入っていく道を1時間ほど歩き、休憩地点である黒部五郎小舎に到着した。
テント場は黒部五郎カールと三俣蓮華岳を視界に収める見晴らしの良い草原に位置しており、予約取りたかったな~と未練を覚えずにはいられなかった。
なお、沢の水が豊富なのか飲み水を無料で補給できた。北アルプス稜線山小屋では珍しい、高峰に挟まれた鞍部にあるからこそのありがたい性質だ。
現役の三国境界、三俣蓮華岳
今日の宿泊場所は三俣山荘テント場。黒部五郎小舎からはさらに三俣蓮華岳を越えていく必要がある。そこそこ疲れが溜まってきているが、歩いていて楽しい道が終始続いているので気にならない。このままもうひと頑張りだ。
小舎を出てすぐに道は鬱蒼とした森の中へ踏み込んでいき、「山頂までずっとこんな感じなのかな...」と不穏な予感。
幸い、予感は杞憂で済んだ。黒部乗越から急登をクリアして稜線へ取り付いたあたりで森は途切れ、大迫力の黒部五郎カールを絶好の位置から眺められるように。
稜線に出たことにより、三俣蓮華岳の南に連なる丸山・双六岳のどっしりとした構えも一望することができた。
そして登頂!
三俣蓮華岳からは三本の稜線が伸びており、それがそのまま富山県・岐阜県・長野県の三県境界となっている。一本はここまで歩いてきた黒部五郎岳からの道、一本は右に見えた丸山・双六岳の連なり、そして最後の一本は明日に登る鷲羽岳への道だ。
鷲羽岳は直線的な尾根の集合した精悍なシルエットを誇っていた。山頂へ向かうにつれて岩の露出が多くなっていくが、それでいて山全体がなす輪郭を少しも乱していない。鷲羽岳という名前も相まって、なんだか王者感のあるかっこいい山という印象だ。明日登るのが楽しみで仕方ない。
鷲羽岳から左を見ると、手前には祖父岳、その奥には水晶岳が。祖父岳が三角巾を広げたかのような広い山頂部を持つのと対照的に、水晶岳はさながら王冠のような波打つ岩峰。その峻険さは剱岳を想起させた。こちらも登るのが楽しみだなあ。
三俣蓮華岳キャンプ場で宿泊
山頂からは30分ほどの下りを経て三俣山荘へ到着。
長丁場ではあったが、正午を回る前に行動を完了させることができた!
テント場は三俣山荘を見下ろす斜面に広々と整備してある。到着が早いこと・太郎平よりも比較的人が少ないことが幸いして、平坦かつ涼しげな場所を取ることができた。
テントを張って乾かしている間、三俣山荘二階の食堂でありがたくボロネーゼを堪能。
おいしい食事で腹も満たされたので、黄昏に沈んでいく鷲羽岳に見入りながら満足して眠りにつくのであった。
天気予報では午後に雨とのことだったが、結局日が落ちるまで一度も雨は降らず、それどころかガスに覆われることもなかった。私は強運なのかもしれない。
つづく
4日目へ続く。次回は縦走のクライマックス、鷲羽岳・水晶岳・雲の平を一気に踏破する!