はじめに
屋久島縦走2泊3日の記録。
1日目はこちら。
今回は2日目 3/24(日)、淀川小屋を出発して宮之浦岳の稜線を縦走し、新高塚小屋で宿泊するまで。
雨降る屋久島の朝
4時半には起床し、周りが明るくなる前に歩き出すべく準備を始めた。
早朝でも気温は10度までしか下がっておらず、睡眠は快適だった。森深い場所で保温機能が高いからだろうか。
一方で雨については夜通し降り続けており、朝には勢いこそ収まっていたが、これからも天候が改善することはなさそうな見通しだった。これからの縦走はおそらくずぶ濡れになるだろうから、朝にちゃんと体を温めておこう。
ということで朝食の後にホットコーヒーを一杯。文明の香りがする。
ほどなくして装備を固め、6時ちょうどには出発した。
歩き出してほどなく、朝日が少しずつ森の中にも差し込んできてヘッドライトは必要なくなる。
霧に包まれた神秘的な森で少しずつ標高を上げていき、花江之河に到達。
花江之河は屋久島では珍しい湿原になっている。標高1600mでありながら周りをピークに囲まれ、水が流れ込むためにこのような環境が形成されているようだ。
ちなみに、花江之河は屋久島南部登山道の結節点となっており、ここからなんと5つもの方向へ道が伸びている。
- 宮之浦岳へ向かう上りの道
- 淀川登山口へ下りる道
- 石塚小屋を経由してヤクスギランドへ下りる道(花江之河登山道)
- 栗生集落へ下りる道(栗生歩道)
- 湯泊集落へ下りる道(湯泊歩道)
屋久島を縦走するならほぼ必ず訪れる場所になるだろう。
岩の頂、黒味岳
花江之河から10分ほど歩いたところで、黒味岳へ往復するルートへの分岐を発見。
黒味岳は屋久島で第六の標高を誇るピークで、往復には標準コースタイムで80分ほどかかる。
私は早朝に出発して体力も充実しているので、当然のごとく黒味岳方向へ分岐した。
分岐開始時点では森の中の道であったが、ほどなくして道は森林限界に到達し、宮之浦岳主稜線よりも一足先に開けた世界を体験することになった。
周囲に遮る木がなくなると、途端に強烈な風がこちらを襲ってくる。歩き続けられる程度ではあるものの、たまにバランスを崩しにかかってきたりレインウェアに雨を力づくで浸み込ませようとしてきたりと容赦がない。雨よりも条件を過酷にしているのがこの風だった。宮之浦岳縦走を終えて再び樹林帯に戻るまで風との付き合いは続いた。
黒味岳までの道は主稜線と比べてもかなり険しく、張ってあるロープを頼らないと登れない急斜面が何個もあった。そのうえ、その多くは表面が滑らかな一枚岩であり、雨で濡れていることも相まってグリップを効かせるのに苦労した。
この一枚岩の大きさ・多さが屋久島の山々の一つの大きな特徴なのかもしれない。稜線を歩いていて周囲を見渡すと、かならずといっていいほど大岩が草原の中にそびえているのを見かける。そして、登山道はしばしば一枚岩の上を通り、登山者に油断を許さない。地形図がいくつものピークで不規則に凸凹しているのも、こういった岩の存在が影響しているのかもしれない。
黒味岳もまさにそんな大岩の中の一つで、頂上を示す標識は岩のてっぺんにひっそりと固定されていた。
残念ながら展望はガスにより望めないため、早々に本道への復路を辿り始めた。
宮之浦岳へ向けた本道へ再び合流したのはちょうど8時のことで、行動時間は大いに残されていた。これでは宮之浦岳を越えて新高塚小屋に行っただけでは12時にもならず暇を持て余すな、ということで永田岳への往復も視野に入ってきた。
束の間の九州最高峰、宮之浦岳
宮之浦岳へ向けた道もすぐに森林限界を超え、開けた道と植生に囲まれて閉じた道を何度も繰り返し、そして上りと下りも入れ替わりながら少しずつ標高を上げていった。開けた道では横殴りの強風と雨に耐えつつ、閉じた道でほっと一息といった感じである種リズミカルではあった。
そうして一心に登っているうちに、9:24に宮之浦岳に登頂!
晴れであれば全周を見渡せたであろう視界の開けた山頂だったけれど、今回は残念ながらガスと暴風にお出迎えされる。
この雨風に歓迎される最高峰登頂というのも、それはそれでこの島らしいと思うところがあり実は結構楽しんでいた。こんな天候を予期して装備も計画も固めてきているのでなんら問題ないし、むしろウェルカムなのである。
山頂には反対側から来た登山者が2~3組ほどいたが、あいにくの風につきリラックスできるような余裕はなく、みな休憩もそこそこに行動を再開していった。私もその一人で、少々の感慨に浸った後はすぐに稜線歩きへ戻った。
ピークはどこだ、永田岳
宮之浦岳から下り始めてほどなく、焼野三叉路へ到達する。ここから西へ伸びる道は永田岳へと通じている。往復にかかる時間は黒味岳よりもさらに長く、標準コースタイムでは150分ほどあったが、迷わず往復へ向けて踏み出した。満喫するぞ!
黒味岳と比較すると道はあまり険しくなく、すたすたと歩いて行けたが、道がくぼみ気味なのが問題だった。
降り続ける雨によりくぼんだ道はどこもかしこも深い水たまりになっており、バシャバシャと渡っているうちについに私の登山靴が陥落、靴下までずぶ濡れになり始めた。GORE-TEXにも勝てないものはある。
それでも行程には支障なく、永田岳山頂付近にはすぐに辿り着いたが、もう一つのもっと大きな問題に出会ってしまった。山頂はどこ!?
登山道が伸びていった先に山頂部らしき岩場があったので、先行者の跡をたどって登りつめていくと辿り着いたのは大岩に囲まれた行き止まり。さすがにここが真の山頂ではないだろうと思って地図を見てみると、どうやら山頂へ向かう道は笹に閉ざされていて不明瞭で、かつ岩場とは別の方向にある?らしかった。
視界が開けない中でこれ以上山頂を探す気も起きず、ここまで来ただけでおおむね満足していたのであまり深入りせずに帰路に就くのであった。
悠々の新高塚小屋到着
三叉路に戻ってきた時点でまだ11時。予定していた中で最上の成果を得つつこの余裕なので目論見は大当たりだ。
途中平石岩屋に入って雨風をしのぎながら軽食を取りつつ下っていき、ついに樹林帯へと戻った。
ヤクシマザルにも出会うことができた。道のわきにじっと控えて、逃げることもなく威嚇をすることもなく、おとなしくこちらを見つめていた。静かな邂逅だった。
そうして12時30分には新高塚小屋に到着。結局時間は持て余すのだった。
新高塚小屋は屋久島の山小屋で最も混雑すると聞いていたため、ある程度窮屈になることも覚悟していたが、到着時点で先客は1組。夕方になっても追加で2組がやってきたのみで、昨日と同じく2階をゆったり占有して寝ることができたのだった。
ちなみに、到着時点でまだ昼だったので、昼食も夕食もそれぞれ小屋の中で温かいものを食べられて贅沢だった。
寝付くまでの暇な時間は持ち込んだタブレットで小説(SFの『三体』)を読んで過ごした。本と違ってバックライトがあるので、薄暗くても読めるのが何よりのメリット。目は疲れたが。三体面白い。
最終日の3日目へ続く!