はじめに
8/3(土)から8/5(月)にかけて、2泊3日で上高地に行ってきた。
目標は一昨年登頂を諦めた槍ヶ岳へのリベンジ、そして槍ヶ岳を起点とした常念岳への縦走だ。
結果としてリベンジは成功。3日間の山行はずっと好天に恵まれ、惜しげもなく全容を現す北アルプスの秀峰たちを眺めながらの大満足な登山となったので記録を残す。
登山計画
登山口は高速バスの便がよく、以前訪れたこともあって勝手がわかる上高地とした。
上高地から槍ヶ岳に登るとなれば、ルートは梓川を辿っていき槍沢を一直線に上るルートが一般的だ。槍ヶ岳登頂までは1日に収めたいのでそちらを採用。
そこからは進路を東へ転換、大天井岳を経由して常念岳へ向けて縦走していくことになる。
最後は稜線の末端である蝶ヶ岳まで到達した後、上高地へ下山することにしたのだった。
次に宿泊の方法だが、8月の北アルプス山小屋の予約戦争に巻き込まれるのは勘弁だ。ということで自由の体現者たるテント泊を採用。
1泊目は槍ヶ岳山頂近くにある殺生ヒュッテが管理するテント場で。
2泊目は常念岳手前の常念小屋が管理するテント場で過ごすこととした。
どちらもテント場の利用に際しては予約不要、日程を縛られず柔軟に動きたい山屋に優しいありがたいところだ。ただし予約不要であることにもデメリットはあり、混雑する時期には早めに到着しないとテントの張り場がなくなっている恐れがある。
とはいえ、今回の山行では時間に余裕を持ったルート取りになっているし、そもそもスピードに関してはそれなりの自信がある。問題ないだろうということで計画を確定した。
さあ出発だ!
1日目:槍ヶ岳登頂
前日夜から夜行バスに乗って上高地へ移動。今回は贅沢にも3列シートの便を選んでみたのだが、これがすごくよかった。足を自由に広げてリラックスできるし、何より隣に人が密着してこないのでパーソナルスペースが完全に確保されている。おかげで夜行バス史上最高の熟睡となった。
夜行バスは登山初日のコンディションに大きく影響してくるので、これからは多少料金が上がろうが3列シートを取ることにしようと決めたのだった。
そんなことを考えながらも早朝の上高地バスターミナルに到着、2年ぶりの景色だ。
各地からのバスが続々と到着し下りてくる人々は思い思いのカラフルな山装備。ある人はベンチに荷物を置いて朝食をとり、またある人は登山届を黙々と書き、そのまたある人はトイレに並ぶといった具合で各々が準備に勤しみ、済んだ人から上高地の豊かな自然へ分け入っていく。
登山者がこれほど同じ場所、同じ時間に集って一斉に行動している様子を見られるのは早朝の上高地ならではだろう。面白さもありつつ、北アルプスという危険も孕む山域に入る人々が心を整える儀式のようでそこはかとない神聖さも感じるような。いや気のせいか。
私もその中の一人として粛々と準備。登山届を出し、5:40に出発した。
あまりにも天気が良いため、河童橋へさしかかったあたりで奥穂高岳が目の前に!眼前に巨大な岩峰が迫る圧たるやすさまじく、あの山に本当に一度登ったのかと感慨深くなる。
前回上高地を訪れた際はあいにくの雲だったわけだが、真価を発揮すると麓からでもこの大迫力ビューになるのか。上高地、恐るべし。
梓川をたどって気楽に歩こう
小梨平から明神分岐までは右岸が通行止めになっていたので、左岸の明神池側へ迂回しながら歩いていく。
槍沢ルートの特徴として、前半はほとんど標高を上げないというものがある。梓川をひたすらにたどるのでそもそも山に入っていかないのだ。
それゆえ、序盤は登山というよりも遊歩道散策といった風情を醸し出し、景色の開けた川岸を大して息も上がらずに歩いて行ける気楽な行程となった。
8:00に横尾山荘を通過。
水平距離としてはおよそ半分を消化したこのあたりから、道は次第に登山道らしくなっていき、勾配がついて標高が上がり始めた。ここまでほとんど休憩を取らずに来ていたが、強烈な日差しに本格的な登りとなると暑さは増していく一方。意識的に休憩を増やしていく。
槍沢を駆け上がれ
9時には槍沢ロッヂとその先のテント場を通過。道が森の中から低木・草原へと変化していくため、直射日光から逃れる術がなくなっていく!帽子・サングラス・日焼け止めで防御しても焼けてくるのだから夏の高山の日差しは怖い。
日差しがよくなるということは、同時に展望が開けだすということ。槍沢へついにさしかかり、高みへ至る道筋、そして槍ヶ岳へ続く稜線が姿を現す!
ただし、そこからが長かった。なにせ、前半でほとんど標高を上げていないので、槍沢ロッヂ通過時点で標高はまだ1800m程度。3180mを誇る槍ヶ岳山頂へ向けて1000m以上もの上りを残しているのだから...
極端な勾配変化や危険個所がない分、かえってひたすらに一定の斜面を暑い中登り続けるしんどさが際立っていた。自分の前後にも同じように苦闘する登山者の姿がいくつも見えるため、それが励ましになるのは救いだったが。
植生が途切れだして周囲に岩がごろつくようになってきたころ、ついに槍ヶ岳がその名を冠する所以である槍の穂先が出現!
鋭角の大岩が天へ向けて堂々と突き出す様はまさしく槍。これ以上にぴったりくるネーミングも他にないだろう。あの上に登れると思えばテンションも上がろうというもの。意気揚々とラストスパートへ入った。
殺生ヒュッテから山頂アタック
11時半を回るころ、ようやく本日の宿泊地である殺生ヒュッテへたどり着いた。
気持ちとしてはほぼゴールしたようなもの。なぜなら、ここから山頂までは重いテント泊装備を背負う必要なく、超軽装でサクッとピストンすればよいからだ!
殺生ヒュッテのテント場は広々としていて、岩がごろつく中にところどころ平坦地が設けられている。到着が早かったこともあって空きはいくらでもあり、悠々とテントを設営したのちに山頂アタックへ乗り出した。
アタックザックは持ってきていなかったので、ポケットへ必要最低限のものを突っ込んで何も背負わずに歩く。空気の薄さを打ち消して余りあるほどの体の軽さに感動しながら、穂先のふもと、槍ヶ岳山荘に一瞬で到着した。
槍ヶ岳山荘ではヘルメットの貸し出しを行っているのでありがたくレンタル。
穂先をふもとから見上げると改めてとんでもない鋭角だ。これを本当に登るのか?と笑いすら出てくるような感じだけれど、いざ取り付いてみると意外と登れてしまうのが登山の不思議なところ。剱岳なんかもそうだった。
怖さよりはワクワクを強く感じながら穂先を登り始めた。
実際に登ってみると、やっぱり見た目ほどには険しさを感じず、適度に楽しいアスレチック的な道のりだった。
ホールドは豊富にあるし、傾斜のきつい箇所には鎖や梯子が念入りに設けられている。往路と復路が別に設けられているので、人とのすれ違いに気を使う必要もない。三点支持さえ常に意識していれば、残りの意識リソースで過程を楽しめる余裕はあった。
最後に二連続で立ちはだかる長い梯子を突破して、ついに待ち望んだ槍ヶ岳山頂へ到達!
栄光の槍
2年前、登山を始めたてのころ、奥穂高からの大キレット縦走を計画したものの天候悪化により断念した槍ヶ岳。今回こそは天気に恵まれ、ついにその頂上に立つことができた!
山頂からは中岳から伸びていく大キレット縦走路も途中まで視界に収めることができ、なんだか一昨年の無念も報われたような気がするのであった。
鷲羽岳をはじめとする黒部源流域の山々や穂高岳・大キレットなどはタイミングが悪かったのか、ガスに隠れて見えなかった。とはいえ今回は2泊3日の縦走、まだまだこの山域を歩くのだから見える機会もあるだろう。これからに期待して槍ヶ岳山荘まで下りた。
オフの時間
既に今日の山行の目的は達成されたので、あとは楽しく宿泊するだけだ。時間はいくらでも余っているので好き放題やりたいことができる。
槍沢を延々と登る中で相当のエネルギーを消費していたのでまずは腹ごしらえ。槍ヶ岳山荘で「槍ヶ岳ブラックキーマカレー」を注文し、槍の穂先が見える屋外カウンターで頬張るというなんとも贅沢な体験ができた。
ついでにデザートでプリンをいただく。1食限定でどでかいジョッキプリンが売っていて笑いつつ、さすがに手を出す勇気はなかったのでふつうサイズを美味しく味わった。
食欲が満足したのちは槍ヶ岳山荘のテント場を偵察。
やはり殺生ヒュッテよりは平坦地が少なく、稜線なので風が強いことも予想される。個人的には、山頂ご来光チャレンジとか特殊な用があるとき以外は殺生ヒュッテで問題ないかな~といった感想だった。
15時ごろには、朝に上高地を出発した登山者のメインストリームが到着し始め、人が増えてくる。山頂で穂先を眺めるのも満足したので、花を眺めながらぼちぼち殺生ヒュッテに下り、ビールを楽しんだりしながら眠りにつくのであった。
つづく
2日目へ続く!