はじめに
北海道レンタカーの旅、6日目。
4日目&5日目はこちら。
6日目はいよいよトムラウシ山へ、そしてその先へ。どこまでも北へ!
6日目:9/21(木) トムラウシ山を越えて、雌伏の往路
朝早く起きるの、しんどい。
夜にめっきり冷え込み、寝袋を貫通する寒さで一度起こされただけに、もう少し休みたい気持ちもあった。が、ただでさえ山頂までのアプローチが異様に長いトムラウシ山だ、できるだけ早く出発したい。
前日に準備していた装備を背負い、4:46に出発した。
秋を超えて冬じゃないのかという気温なもんだから、ソフトシェルの上にフリースジャケットまで着込んで登り始めるほどだった。
登山道は樹林帯を抜けるオーソドックスな道だが、木道がすごく多い。
昨日トムラウシ温泉でホワイトボードに書いてあって知ったことだが、9月初めごろにボランティアが木道の整備をしてくださったらしく、私が歩いた木道の多くはそのときに設置されたであろう真新しい輝きを放っていた。体力消費が劇的に減るしタイムも稼げる、本当にありがたい。
身体が温まってくると、気温の低さもむしろ快い要素だ。吸い込む空気が清浄だし、飲み水は勝手に冷却されてキレッキレになっている。
暑さにやられることもないので、高いペースを維持してコマドリ沢分岐を通り過ぎていく。この辺でようやく長いアプローチが終わり、いよいよ尾根に取り付くための急勾配へと道が変わる。
沢沿いを登っていった先では右にガレ場が広がり、トラバースしてから登りに戻る。
ここまでの行程の長さに比べたら残りの上り程度は苦ではない。前トム平へはあっという間だった。
前トム平からはいったん高度を下げ、トムラウシ公園を経由する。
そして8:34、登頂!
登ってみて思ったのは、トムラウシ山の山容は南アルプスっぽいな~ということだった。山頂付近になると植生がなくなって岩稜になり、大らかながらもゴツゴツとした黒めの岩が曲線をなす様相が北岳あたりの山々に似ていた。
アプローチの圧倒的長さはオンリーワンだが。
さて、トムラウシ山登頂は成功したけれど、今日の目標は「ここからどれだけ北へ進めるか」だ。宿泊地点の候補としては
- 南沼キャンプ指定地
- ヒサゴ沼避難小屋
- 忠別岳避難小屋
の3つがあったが、今はまだ朝9時。まだまだ行動時間が残されている。
忠別岳避難小屋を目指す、いっそのことその先にある忠別岳山頂へのピストンまでやってしまおうと決めた。
山行を再開して山頂を下りると、そこには北沼。
北沼からヒサゴ沼分岐までの区間は「ロックガーデン」と呼ばれる岩石地帯を下り、さらに「日本庭園」を抜けていく道になる。地図上では大した距離ではないはずなのだが、思ったよりもずっと時間がかかった。
ロックガーデンは巨大な岩を渡り歩いていく必要があるうえ、辺り一面が同じような岩でペンキ印もまばらにしかついていないため、ルートを見失いやすい。実際私はなんどもどこを歩けばよいか分からなくなり、面倒になったのでルートを気にせず勝手に下りて行った。終点さえ合ってればいいのさ。
2009年のトムラウシ山遭難事故では、強風と雨の中この区間を抜けるのに手間取り、その先の北沼でパーティが瓦解してしまったと聞く。確かに、コンディションの悪い中通るべきでない道なのはよく伝わってきた。ここまで来てしまうと近くにエスケープルートがないから、避難することもできない。
途中にある天沼をヒサゴ沼かと勘違いするくらいには距離感覚がバグっていた。
10:40にヒサゴ沼分岐に到達、ヒサゴ沼が横に見えるにあたってようやく感覚が修正される。
ここからはようやく道の起伏が緩やかになってきて木道も増え、まったり稜線歩きモードになってくる。チングルマの群生がところどころに広がり、これで天気が晴れてたら最高だったのにな~と思いをはせながら化雲岳に到達。
化雲岳からは稜線が右直角に曲がり、進路は真東へ。ここから五色岳まではさらに木道の割合が増え、沼の点在する花畑の散策となった。
五色岳までは木道の助けもあって無理なくいけたが、既に足をほぼ使い切っている状況。ここからラストスパートの忠別岳ピストンが本当にきつかった。
まず忠別岳の圧ある山容に心を折られる。
そして案の定、山頂までの道はいつまでも終わらないかのような長さだった。もはや大雪山の定番となりつつある錯覚。
加えて、道の左右からせり出すハイマツなどの低木。体に無限に当たって不快感を増してくる。
13:20、なんとか山頂へ到達したがさすがに限界。あらかじめ決めていた通り、忠別岳避難小屋へ戻って宿泊することにした。
下りる過程も例によってめっちゃ長かった。でもご飯を食べたい一心で避難小屋まで歩きぬいた。
14:14に忠別岳避難小屋に到達!
標準コースタイム13時間55分のところを9時間28分で歩いたらしい。草。
痛恨なことに忠別岳避難小屋の写真を撮り忘れていたが、まさしくこの建物だった。
中は無人。荷物を広げ放題なのはいいのだが、水場の情報が得られないのは困ったものだ。地図には「水」マークが書いてあるし、この地図は今年の最新版。水場の存在は疑っていなかったが、ちょっと焦りはあった。あいにくスマホも圏外だ。
幸い、ヒントはあった。避難小屋から沢沿いを下りる方向へ踏み跡があったのだ。「たぶんこの枯れ沢の先に水たまりがあるんだろう」とあたりをつけて辿っていくと、予想は的中。澄んだ水がもと小川だったであろう溝に溜まっていた。
私一人が水を補給するには十分な量ではあったが、「水場」というにはあまりにも頼りない、吹けば飛びそうな水たまりだった。北沼の水量の減りからも分かるように、今年は特に雨が少なかったせいでこんな状況だが、普段は小川ぐらいの量はあるのだろう。
懸案事項だった水問題が解決したので、もうホクホクだ。ポットに入れて持ち帰り、即座に煮沸。飲まずに残しておいた冷たい水に混ぜることで、ペットボトルの破損を防ぎ、冷ます時間を短縮した。
飲み水用の煮沸は3回ほど繰り返したが、それはそうとして腹が減った。
今日はレトルトカレーにアルファ米に特上カップヌードル(シーフード)にチョリソーという超豪華ラインナップを持ちこんでいた。調理用の水が無限に使えるので、容赦なくレトルトカレーは湯せんしてからアルファ米のパックにインし、チョリソーはカレーライスとカップヌードルの両方に2本ずつぶち込んだ。
今までは山ご飯をここまで豪華にしたことはなかったので感動した。特にチョリソーというタンパク質を取れたのがこれまでにない快挙だった。荷物を多少増やす甲斐は間違いなくある。
食事を終えて早々、上はフリース下は靴下まで着込んで床に就いた。すっかり暗くなった後、18時を回ったころだろうか、2人組の男性がヘッドライトをつけながら小屋にやってきた。
もう私は目を閉じていたので、この日は一言挨拶をかわす程度となった。
風こそなかったが、今日も一日終始薄暗かった天気。明日こそは晴れてくれと思いながら眠りに落ちる。そして天は願いに応え、ついに太陽はその身を現す。
⑥トムラウシ後編へ続く!
行きで既に目にしたはずの景色が、まるで違って見える帰り道!