はじめに
シン・仮面ライダーを観てきたので感想を書く。ネタバレは無限にちりばめられているので注意。
参考までに私の背景を紹介しておくと、仮面ライダーについては平成の「仮面ライダーオーズ」しかしっかり観ておらず、昭和ライダーについては全くの無知である(そのオーズには育てられたといっても過言ではないので大好きなのだが)。
一方、庵野監督の作品についてはしっかり観てきていて好きなので、どちらかというと「庵野監督が自由に作った最新作を魅せてくれ!」という態度で鑑賞した。そういう感じなので、あまり仮面ライダーの文脈で体系的に作品を論じることはできない。純粋に一本の映画を観た人としての感想になる。
第一感
第一に来る感想は、やっぱり庵野監督仮面ライダー大好きなんだなあ~という呆れ半分感心半分のものである。ただし、この作品はそれだけでは終わらず、ビジュアルのかっこよさ、場面の運び方といった映画の基本的な部分に面白さが含まれているように感じ、かなり楽しめた作品であった。その部分で個人的には「シン・ウルトラマン」よりも楽しめた。オリジナルへの愛の程度は同じぐらいあるのだと思うけれど。
個別の感想
コーヒーが合う映画
私は何も飲まず食わずで鑑賞していたが、隣の人がコーヒーを飲んでおり、時折鼻に触れるその香りがめちゃくちゃ映画と合っていた。自分も買えばよかったと後悔したので、これから観に行く人は(ネタバレ感想を読んでいる未鑑賞の人はいないと思うが)ぜひコーヒーを楽しみながら見ることをおすすめしたい。
どうしてそう感じたのかといえば、作品全体がダークで落ち着いた雰囲気に統一されていて、香りを楽しんでリラックスしながら観るのに最適だったからだろう。それを作り出している最大の要因は画面の彩度が意図的に低く落とされていること。仮面ライダーも湖も線路もプラントも、すべてが淡い色彩のもとで映し出されていて、己の発揮する暴力性に苦悩しながらも徐々に覚悟を決めて戦いに身を投じる仮面ライダーの渋さを反映しているかのよう。
演技がきわめて抑制的であるという点もこの雰囲気の醸成に一役買っている。シン・ゴジラを想起するような、表情や演技に頼り過ぎずに、でも確かにドラマを作ることに成功しているところがある。一方でシン・ゴジラと違うのはちゃんと聞き取れる速さでしゃべってくれること。
(演技が抑制的だった最近の作品としてアニメの「チェンソーマン」も思い出した。あっちは原作の勢いと狂気を完全に殺して最悪のディレクションだったと思うが、本作みたいに使えばちゃんと良い効果だって生み出せるんだよな、使い手次第だよやっぱり、と思うのであった)
そして、落ち着いた雰囲気に統一されているからといって決して退屈するわけではなく、むしろ多数の昆虫オーグをテンポよく倒しながら一直線にクライマックスまで向かっていくので、最後まで集中が切れない。今時の映画としての要件をしっかり守っている感じはする。
いっそ開き直った場面転換
本作で特に新鮮さを感じたもう一つの点は、場面のつなぎ方。特に最初のクモオーグ戦で顕著なのだが、中間のカットを挟まずに一瞬で場所が移ることが多い。決まった構図から決まった構図にパッと移し、その過程を映す気がないいっそ開き直った表現方法で、これだけ見ると映画というよりむしろ漫画に近いやり方ではないだろうか。前後の構図がちゃんとかっこよければ問題ないし、それに関してはむしろ庵野監督の領分といってもよいので、結果として効果的に働いていたのではないだろうか。
劇伴が好き
ごく一部でオリジナルTVシリーズの楽曲が使われていて、それに関してはどういう感想を持てばいいのかよく分からない。強いて言えばこの楽曲が使いたかったんだな~という微笑ましい気持ち。それ以外の劇伴がすごく良かった。ロックな感じできちんと現代的、落ち着いた雰囲気の中でも適度に緊張感を生み出してアツくしてくれる。
不満点:アクションの分かりづらさ+暗さ+CGの未成熟感
このように美点も多い一方で、不満点もちゃんとある。具体的にはアクション面で複数の問題を感じる。
まず単純に認識しづらいアクションシーンが多い。おそらくカメラワークに起因するものと思われる。クモ戦・チョウとの最終戦などがそれ。
そして、2号と共闘しながら最終戦に向かう道中、とにかく暗い。IMAXで観たのだが何が起きているのかほぼ分からなかった。他のシーンではきちんと明るい中で戦闘していただけに、なぜここをこんな真っ暗戦闘にしてしまったのか分からない。これに関してはDolbyATMOSで観た方が良い点かもしれない。(黒の表現に定評があるらしい)
最後に、CGが画面に溶け込めていない違和感が強かった。特にコウモリ戦、2号戦。コウモリ戦ではコウモリオーグが羽ばたいてホバリングする間ずっとCGなのだが、画面からすら浮いてフワフワしていて、なんだかこうTVシリーズの特撮感がすごい。2号戦をはじめとして、跳躍からの空中戦のCGも物理法則に沿っている感じがしない。そもそも人型で何十メートルも跳躍すること自体が一般的に観測しえない現象というのもあるかもしれないが、それにしても不自然さを感じる。シンエヴァのCGなんかはとんでもない出来だっただけに、それに遠く及ばないものを見せられてしまうと、それにたとえオリジナルリスペクトな表現が含まれていたのだとしても少しがっかりしてしまう。
不満らしい不満といえばこの程度、全部アクションに集約されている。
露骨に人類補完計画
これは必ずしも仮面ライダーだけに限った話ではないと思うが、「これエヴァで観たことあるな」という要素が出てくる。これは実のところ順序が逆で、庵野監督がオリジナルの特撮群から影響を受けまくっているというだけだと思われるが。
と、思っていて、今回出てきた人類補完計画そのものである「ハビタット計画」も「たぶん仮面ライダーが初出なんだろうな~」と思ってググってみたが出てこない。まさか、これに関してはオリジナルを尊重したわけでなく単に人類補完計画を流用しただけなのか・・・?
既視感のあるキャストに笑ってしまう
シン・ウルトラマンのキャストがあからさまに出ていて思わず笑ってしまった。
- 竹野内豊:シン・ゴジラ、シン・ウルトラマンに続き今回も政府の人だった。この人はたぶんそうだろうなと予想はしていた。
- 斎藤工:政府の人の部下。リピアが素知らぬ顔して喋っているものだからここで笑ってしまった。
- 長澤まさみ:サソリオーグとしてド派手に登場して即座に散っていった。こんな出し方があるか!w
おわりに
庵野監督が趣味全開で作ったということもあって、何か社会的に重要な主張がくみ取れるとかそういうことはあまりない(あったとして、それは既にエヴァに昇華されていると思う)。だが、その趣味への愛を全力で我々に見せてくれるというだけで私は嬉しいし楽しい。ぜひこれからも新しい試みを続けていってほしいと思う。